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宮廷へ上がる準備は着々と進んでいった。
ラウリーヌは改めてマナーとダンス、宮廷での作法を学ぶ。
ジョスランはクリフに任せるものと王都でもできるものを仕分けていく。
そうして二月になり出発が迫る夜、ラウリーヌは夢を見た。
*
前に立つジョスランの後ろ姿。すぐそこにいるのに手を伸ばしても手が届かず、声を掛けても振り向いてくれない。
不安になってジョスランを追いかけて前に出て顔を目ようとした。
しかし、どこからか黒い霧のようなものが現れジョスランの姿を隠した。
必死になり黒い霧をかき分けると、そこにはジョスランが目を閉じ倒れている姿。
青白い顔には生気がなく、体には黒い鎖が絡まるように何本もまとわりつき、口の端からはやけに鮮やかな赤い血が一筋流れている。
「いやああぁぁっ!」
*
ラウリーヌは自分の叫び声で目を覚ました。
「ラウリーヌさま!? いかがなさいました?」
隣の部屋からジーナが駆け込んできたが、ラウリーヌは真っ青な顔をして廊下に走り出ると二つ隣のジョスランの部屋へ飛び込んだ。
「ん……? ラウリーヌ、どうした?」
「ジョスラン……。」
「泣いているのか?」
「夢……。ジョスランが……。」
「落ち着いて。悪い夢か? どんな夢を見たんだ?」
「いやっ、夢でも口に出したくない。」
ラウリーヌが首を横に振ってからジョスランにぎゅっと抱きついた。ジョスランがわずかに固まり、そして「はっ」と息を吐いて右手でラウリーヌの金の髪を撫でた。
「夢は夢だ。大丈夫だよ、ラウリーヌ。」
しがみつき離れようとしないラウリーヌの耳元で優しく囁く。
「不安なら、今夜はここで眠るか?」
ラウリーヌはばっと顔を起こす。その顔は月明かりの中でも分かるくらい赤い。
ジョスランはにこりと笑った。
「ラウリーヌ、愛しているよ。だから安心しておやすみ。」
「あ……あう……。」
恥ずかしくなり布団に顔を埋めて隠すと頭上からジョスランの小さく笑う声が聞こえた。
(ああ、私もこの人を愛している。強くて優しくて暖かい手を持つこの人が……。)
「う……、私も、愛しているわ。」
その言葉を聞いたジョスランは、またわずかに固まった。
*
翌朝、ジーナがラウリーヌの部屋の前で複雑そうな顔をして立っていた。
*
社交シーズンの始まりに合わせ、早めにメリザンドを出発する。
ラウリーヌは馬車の窓からじっとメリザンドの街の風景を見ていた。二人の右手薬指には、お揃いのサファイアとトパーズの指輪が輝いている。
「やることが終わったらすぐに戻って来られる。そうしたら結婚式の準備を始めよう。」
「ええ、ジョスラン。すぐに帰ってきたいわ。たとえ宮廷がどんなに素晴らしい所でも、南部以上のことはないわ。」
ラウリーヌとジョスランはレノーとクレマン、ジーナを伴って南部を後にした。
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