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ゴーチェ①
五年前、先代のジスラール国国王の突然の崩御から始まった内乱。
当時まだ十四才だったローランド王太子の即位、そしてその母后と一部の寵臣による摂政政治に異議が唱えられ、王弟エクトルとそれを支持する貴族が立ち上がった。
王都とその周辺は戦乱に陥り、貴族たちも王太子派と王弟派に分かれて戦った。それは文字通り血で血を洗う戦だった。
一年に及ぶ戦いの末、内乱は王太子派の勝利で終わり、ローランドは若干十五才で即位する。
国王となったローランド一世とその母である王太后は、王弟夫妻を自死に追いやり、王弟派となっていた貴族たちを粛清、処分した。
わずか十五才の国王による冷酷な処断は、大勢の貴族たちに恐怖を植え付けた。
*
当時、南部の貴族たちは王都から離れていることもあり内乱では中立の立場を取り、ベルジュラック公爵を始め領地を守ることに専念した。
そしてローランド一世の即位により平穏が訪れたかと思われたが、戦に巻き込まれた王都の庶民たちの疲弊はかなりのものであり、家や仕事を失い貧困に喘いで治安は悪化した。
おまけに増税を課した王家に期待できず追い詰められた人々は『持っている者から奪う』ようになる。
盗人となった貧しい者たちは地方にまで足を伸ばすようになり、特に豊かな穀倉地帯であり海に面して資源豊かな南部には大量の難民と盗賊が流れ込んだ。
*
内乱の終結から少し経った、ラウリーヌが十二才の時だった。
ラウリーヌの住むゴーチェ子爵が治める領地にも盗賊が近づいているという情報が入った。
急ぎ領民たちを城内に匿い城門を固く閉ざしたおかげで、多少の奪略と放火があったものの命を落とした者はいなかった。
ただ、『彼』を除いて。
リオン・サージェス。
ゴーチェ領の西隣に位置する領主サージェス伯爵の息子でありラウリーヌの幼馴染。銀色の髪の毛と青空を湖面に移したような透明感のある青い瞳をした三つ年上の美しい少年だった。
当時十五才だったリオンは、平和が戻りつつあったため一時避難していた自領から南部で一番大きなベルジュラック領都メリザンドの寄宿学校に戻ることになった。
メリザンドへの道程の途中、ゴーチェ領に近づいた際に盗賊に襲われ、二度と帰ってくることはなかった。
不可解なことに、リオンに付いていた護衛や御者は遺体となって見つかったが、リオン本人は忽然と姿を消してしまった。
人々は哀しみながらも、リオンの天使のような美しさを揶揄して心ない噂をしたが、ベルジュラック家を筆頭にリオンの親であるサージェス伯爵と周辺の領主たちが躍起になって噂を鎮め、リオンの行方を探した。
あれから四年、リオンは見つからずサージェス伯爵夫妻は憔悴しきっている。その姿は痛々しいほどだが、今でも希望を失わず今でもリオンを探し続けている。
彼はきっとどこかで生きている、と。
そんな中、前ベルジュラック公爵が亡くなり息子のジョスランに代替わりをしたと聞いた。ラウリーヌはまだ子どもだったため詳しいことはよくわからないが、盗賊の問題を解決したのは若き当主ジョスランだと聞いた。
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ジョスランは尊敬に値する人物なのだろう。しかしラウリーヌは決めたのだ。この手に剣を持ち、この土地と領民を守り、いつかリオンを見つけ出し助けると。
だから結婚など考えられないというのに。
けれど相手は諸侯だ。そして我が子爵家は、古くはベルジュラック公爵を主君とするベルジュラック公国に仕えた騎士であり、その時の報奨として領地を賜った家臣に過ぎない。
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「今日のお嬢は荒れてるね。暴れるのはいいが無駄な力が入っている。すぐに疲れるぞ。」
ラウリーヌは朝の勉強が終わった後、昼食までの時間に騎士たちとの鍛錬に加わっている。
この騎士たちも戦乱と盗賊の討伐、リオンの捜索を経験し、ラウリーヌの無念も信念も理解していた。
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