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内乱が発生した時、アンジェルは十二才だった。
以前から宮廷内が不穏な空気に包まれていたのはなんとなく感じていたが、父が突然亡くなったことで顕になった。
優しかった叔父と従兄弟が敵となり、母と兄は人が変わったようになった。
アンジェルは離宮になにもわからないまま閉じ込められた。
わずかな使用人と日々粗末になっていく食事。
それまで国王の庇護のもと守られ天真爛漫に育ったアンジェルには、その生活は耐えられなかった。
「外に出たいの! お母さまやお兄さまに会いたい!」
「いけません、外は大変危険なのです。」
「黙りなさいっ、息が詰まるのよ!」
果物の横に置いてあったナイフを掴み投げると、壁に飾られている女神を描いた絵画に当たり、傷が入った。
「きゃああぁっ、絵が!」
侍女の悲鳴をよそにアンジェルは立ち上がり、ゆっくりと床に落ちたナイフに近寄り拾うと、一思いに絵を切り裂いた。
その瞬間、響き渡る侍女たちの悲鳴も心地よく感じられ、それまでの鬱憤も綺麗に晴れ渡っていくような気がした。
それからは、高価な食器や美術品を破壊し恐怖に引き攣る侍女の顔を楽しんだ。
そのうち動かない物を壊すだけでは飽き足らなくなってきた。
ある日、厨房に生きたウサギが入ったと使用人たちが話していた。久しぶりに美味しい料理が食べられるだろうと。
どうせ殺される命。消えていく命を見てみたいと思った。そう思うと、今まで感じたことのない高揚感がアンジェルの体を貫いた。
*
「王女殿下、こんなところにどうしました!?」
帽子を取りぺこぺこする料理人にアンジェルは天使のように微笑んだ。
「いつもわずかな材料で美味しく作ってくれてありがとう。どんな工夫をしているか見たくなったの。」
厨房内をちらりと見渡すと、部屋の隅に木で作られた檻があり、茶色いウサギが丸くうずくまっている。
「王女さまが見て楽しいものではないと思いますけど……。」
「いいえ、命を頂くのですもの。王女として見届けたいのです。」
「そ、そうですか。ではまず魚から……。」
正直がっかりしたが、料理人が水の入った桶から出した魚はビチビチと跳ねている。
料理人はその魚の頭近くに包丁を入れた。
包丁が刺さっているにもかかわらず、魚はまだピクピクしている。
アンジェルは胸の中に抑えがたい興奮が湧き上がるのを感じた。
そしてウサギ。
料理人が心配そうにアンジェルを見るがアンジェルが小さく頷くので、仕方なくウサギの首を掴み、料理を再開した。
それから、一通りの料理が出来上がっていくのを見て食堂に行く。
先ほどまで生きていた魚やウサギが美味しそうな料理となって皿に載っているのを見て、アンジェル王女は嬉しそうに微笑むのだった。
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