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バルティ②
舞踏会から二日後、ユベール・ゴードが王都バルティにあるベルジュラックのタウンハウスへやってきた。
「先日のお詫びに来たんだ。……ラウリーヌ嬢とは話した?」
「王妹殿下のことはざっと話したが、なぜだか避けられているような気がする。」
「あー、ラウリーヌ嬢も色々あって混乱しているんだろう。私も謝るから全て話した方がいい。」
ジョスランがユベールをちろりと見やった。
「隠し事はない方がいいよ?」
壁際でレノーとクレマンも頷いている。
「隠してはいない。忘れていただけだ。」
ジョスランはため息をつき、ラウリーヌを呼びにやった。
*
ラウリーヌがどことなく気まずそうな顔をして部屋に入り、ユベールにカーテシーをしてから微妙な空間を開けてジョスランの隣に座った。
「……。」
「……。」
「えーと、舞踏会の後、すごく評判になっているよ。神秘的な夜空の君と黄金の妖精だって。」
ユーベルがおどけてそう言うと、ジョスランが視線を向けた。
ユベールは肩をすくめてから背筋を伸ばし、こほんと咳払いをした。
「……先日のことを謝りに来たんですよ、ラウリーヌ嬢。私が話したことで混乱しているのでは、と。申し訳なかった。」
ユベールが両手を膝に置き、勢いよく頭を下げた。
「……いえ! 頭を上げてください。」
「本当にすまなかった。それで、いい機会だから全てを明らかにした方がいいと思って。ほら、ジョスラン。」
「ああ、うん。……まずは私の体がこうなった理由だな。」
「それは馬車の中で聞いたわ。」
ラウリーヌが首を傾げてジョスランを見た。
*
王都に来る車中で聞いた話は衝撃的だった。思い出すと今でも胸がきゅっとする。
ラウリーヌが膝の上でぎゅっと握りしめている手に、ジョスランが右手を乗せた。
なんと理不尽なことかと思う。体が動かなくなったジョスランはどれほどの絶望を味わったのか。そしてなぜ、今もなお動かない左腕と左足を抱えなくてはいけないのか。
それに対する労いの言葉は、先日のローランド国王からはなかった。
「それは仕方がない。これは王家にとって機密事項だ。ユベールのようにその場にいた者や当時の重鎮たちは知っているが、公表されていない。国王としてもあの場で口にすることはできない。」
ラウリーヌは釈然としない思いを抱えながら、話の先を聴くことにした。
「矢が刺さったのは左肩でね。だからこちらの治りが悪いのかもしれない。」
「そういう問題じゃないと思うよ、ジョスラン。」
冗談めかして言うジョスランに、クレマンが小さな声で呟いた。
*
当時、ジョスランの父である前公爵をはじめ、南部の貴族たちも必死に治療法を探った。
ジョスラン自身がすっかり諦めた頃、毒を作った者ならば解毒剤を作ることができるのでは、と矢を放った犯人や依頼したとされる王弟派の貴族を調べ上げ、一人の天才毒薬作りを見つけた。
*
「まさか……?」
ラウリーヌがクレマンに顔を向ける。
「うん、僕。」
「でもクレマン、その時はあなたもまだ子どもだったでしょう?」
「僕ね、天才なんだよ。」
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