夜の城

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夜の城

 *    暖かい居間。メリザンドにあるベルジュラック邸の中でも一番落ち着く居間の長椅子で、ジョスランはラウリーヌの右手薬指にサファイアとトパーズが並んだ指輪をはめた。  ラウリーヌの気持ちが固まった後、二人でデザインを決めて作った指輪だ。   「結婚式では左手薬指に指輪がはめられたらいいのだがな。」 「ふふっ、マッサージを続けたら大丈夫よ。」  そしてラウリーヌはもう一つの指輪、同じデザインの指輪をジョスランの右手薬指にはめた。    *  幸せな夢を見ていた。だがだんだんと幸せな光景はぼやけていく。  部屋の中が明るくなるのに誘われるようにして、ラウリーヌはゆっくりと目を開けた。 (ここは……どこ?)  貴族の屋敷の部屋のようだが、壁は積み上げた石がむき出しで、豪華な調度品とはちぐはぐな印象を受ける。 「ラウリーヌ、起きたかい?」  天蓋のカーテンが開かれ、銀色の長髪を後ろで結んだ男が、水色の澄んだ目でラウリーヌを見下ろした。ラウリーヌは懐かしいその色を見て目を見開いた。 「もしかして……リオン……?」 「覚えていてくれたんだね、嬉しいな。」  リオンは嬉しそうな笑顔を浮かべた。   「リオン、あなた無事で……! いえそれよりもここは? っ、ジョスランは?」 「まあまあ、落ち着いて。君はここでしばらく過ごすんだよ。俺が守ってあげるからね。」 「だめよ、王宮に行かなくてはいけないの、ジョスランに会わなくちゃ!」  リオンはむっとした顔をしてそっぽを向いた。 「ジョスランとかいう男は重罪を犯してシリル監獄だよ。もう会えない。」 「シリル監獄……? 政治犯を収容する監獄じゃない……。」  ラウリーヌは青ざめて唇を震わせた。リオンは面白くない気持ちを抑えてにこりと笑いながら言った。 「ラウリーヌの婚約者殿は随分と国王に嫌われたんだね。シリル監獄の中でも過酷な地下牢に入れられたらしいよ。」 「ありえないっ、冤罪だわ! ジョスランが罪を犯すはずがない!」   「……知らないよ。」  リオンは肩をすくめ、これみよがしにため息をついた。 「ねえ、俺と久しぶりに再会したのに何とも思わないの? 残酷だね、ラウリーヌ。とにかく君の婚約者殿はもう終わり。いいね?」  ラウリーヌは混乱していた。どうなっているのか。ジョスランは国王のサインが入った婚姻許可証と誓約書を受け取りに行ったはずだ。そしてラウリーヌにも召喚状が届いた。  ユベールが『気をつけろ』と言っていたが、まさかジョスランが国王に目をつけられて政治犯として捕まるなんて。  ラウリーヌが視線を上げると、不満そうに腕を組んで立っているリオンがいた。 「ほら、とにかくこのスープでも飲みなよ。丸一日気を失っていたんだ。」 「……丸一日?」  ではジョスランは二日近く地下牢にいることになる。レノーやクレマンはどうなったのだろう。タウンハウスのみんなやお義母さま、メリザンドのブノア夫人たちは……。    どうにかして連絡が取りたい。
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