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夕食はジョスランと別々に摂り、湯浴みの後ラウリーヌはぽすんとベッドに倒れ込んだ。
「疲れたぁ。」
「そうですね、思っていたのと全然違いましたね。公爵家は堅苦しいものかと思っていましたが全く違っていて安心しました。」
「メイとサラとは上手くやっていけそう?」
二人は湯浴みが終わった後下がらせている。
「はい、ブノア夫人からよく教育されているようで、私にも真摯に接してくれます。」
「そう、よかったわ。ジーナの部屋は隣にあるのよね?」
「はい、専属侍女用の部屋が隣に。何かあればすぐに呼んでください。」
ジーナが灯りを落として部屋から出ていくと、ラウリーヌは(なんとかやっていけるかもしれない)と思いながら眠りに落ちた。
*
「おはよう、ラウリーヌ。」
ラウリーヌが食堂に行くと、ジョスランは既に朝食を終えたようで、クレマンから薬を渡されているところだった。
「申し訳ございませんっ。私、遅れましたか?」
「いや、かまわない。」
ラウリーヌはジョスランをじっと見た。
「もしかして、私に気を使ってくださってますか?」
「んー?」
するとクレマンと後ろに控えていたレノーが吹き出した。
「ジョスランでも格好つけることがあるんだね!」
ジョスランは気まずそうな顔をして薬を飲んだ。
「ジョスランの食事は全て右手のフォークだけで食べられるように切られているんだよ。それが子どもみたいで恥ずかしいんだよねえ。」
「大丈夫大丈夫、食べ方は綺麗だよ。恥ずかしくないって。」
側近二人に笑われている公爵を見てラウリーヌはひやひやする。だが、ジョスランはこほんと咳払いをして言った。
「なら、よければ昼食は共にしよう。」
ジョスランの目の下が少し赤くなっていて、九つも上の男性に向けて失礼かもしれないが、可愛いと思ってしまった。
ジョスランは昨日できなかった仕事を片付けると執務室へ去った後、ラウリーヌは朝食を摂った。
その後、ブノア夫人と二日後に行われるお披露目の夜会と今後の公爵家夫人としての勉強の予定を確認し、屋敷内を案内してもらった。
広すぎて、一人で歩くと迷子になりそうだ。
「あの、こ、ジョスランさまは本来なら結婚するつもりはなかったとおっしゃっていましたが……。」
「ええ。元々、先代の旦那さまはジョスランさまのお体のこともあり、養子を取って公爵位を継がせるおつもりでした。しかし先代の国王陛下が崩御され起こったあの内乱の折、大切な領地と領民のことを考えてジョスランさまに継がせることを決めたのです。お体もその頃には起き上がれるまでになっておりましたし、なによりもジョスランさまは優秀でありますので。
その後、先代さまが急逝されて慌ただしく跡を継がれましたが、ジョスランさまも結婚はせず養子を取るつもりだとおっしゃっていました。
そうは言っても一応ご婚約相手を調べており、一度は候補の中にラウリーヌさまのお名前も上がっておりました。しかし、お年が離れている上、サージェス伯爵のご嫡男と婚約されるのではと聞き、候補を外されたようです。ですが……。」
リオンは行方不明になった。
「それからです。ジョスランさまは過酷な訓練をしてご自分の足で歩けるように努力を始められたのは。そしてなんとか杖を使えば歩けるようになり、婚約者としてジョスランさまの強い希望でラウリーヌさまの名前が上がりました。」
ブノア夫人は困ったように微笑んだ。多分、年齢もだが身分もあるのだろう。家臣の子爵家の娘など、公爵家にとってなんのメリットもない。
しかしなんだかラウリーヌはドキドキしてきた。
「ですので、この屋敷の者、ひいては領内の者全てがラウリーヌさまには感謝申し上げているのです。」
「あの、反対はされなかったのですか? 私は子爵家ですし……。」
「まあ、とんでもございません。ご結婚されないと思っていたのですから歓迎こそすれど反対するなどありえません。」
「余計なことを話してないか? ブノア夫人。」
低い声に振り向くと、ジョスランが杖を持った右手を腰に当てて立っていた。少しむっとした顔をしている。
「まあまあ、坊ちゃま、立ち聞きはいけません。」
「坊ちゃまは止めてくれ、ブノア夫人。」
長身ではっとするような美貌の男が「坊ちゃま」と呼ばれて困っている。それがなんだか面白くて笑ってしまった。
「ラウリーヌ、やっと笑ったな。」
「え、そうですか?」
「ああ、ずっとつんとした顔をしていた。
ブノア夫人、昼食をテラスに用意してくれ。」
「かしこまりました。」
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