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本文
指先が痛むのをいとわずに、原稿用紙にペンを走らせる。ときおり口笛なんて、吹きながら。いま、この瞬間。紙に閉じ込めて起きたい思いが、あふれてとまらないのだ。ふいにペンが止まる。
「あれ、これって……」
積み上がっている中から、該当する本だけを抜き取る。ぱらりと、ページをめくった。確認し終えると、ふたたびペンが音を立ててすべっていく。窓から陽光がこぼれる時間になって、ようやく少女はぐっと伸びをした。
「いい作品が書けた!」
パソコンの電源を入れて、小説投稿サイトにログインする。「新規作品作成」ボタンをクリックして、さっそく投稿した。閲覧数は少し、増えている。それだけで大喜びし、ブックマークがつけば、赤飯を炊きたくなるほどだ。もしかすると、さらに有名になって書籍化するかもしれない。はたまたコミカライズして、アニメ化してしまうだろうか。夢はどんどんふくらんでいく。考えるだけで胸がおどってしまう。しばらくして、感想が届いた。
『文章がめちゃくちゃだし、意味分からん』
『なにこれ。まったく面白くない』
『つまらん。正直なにをかきたいのか、さっぱりわからん』
夢が空虚となって、脳は思考を止めてしまう。自分には文才がないのだろうか。この小説は面白くないのだろうか。パソコンの電源を落として、ベッドの隅にうずくまる。スマホが「ぴこん」と音を立てた。友人からのメッセージがとどいた。
『新作、よんだよ! すっごく面白かった。ねえねえ、つぎはどうなるの?』
書けなくなったんだよ、と、打ち込む。
『どうして?』
正直につたえると、友人から「消しちゃいなよ。そんな感想。この小説の良さをひとつも理解してないんだからさ」と返ってきた。でも一度空いた穴は満たされない。
『でも、それじゃ納得しないよね。そいつらを見返してやればいいんだよ。私も協力するからさ』
落ち込んでいた気持ちが軽くなって、笑顔を浮かべていた。気づけばまたペンを握って、少女は机に向かっていた。
了
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