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船出のち暗雲
「何でそんなに落ち込んでんだよ。大成功の個展だったじゃないか」
私は大学の食堂で注文もせず頭を抱えていた。
うなだれている私をよそに、千客万来だったじゃないかと笑いながら日替わり定食を飲み込むように食べている辰巳を見たら、人の気も知らないでと恨みがましく思えてくる。
「教授も褒めていたわよ、素晴らしかったって。七星、ほんとにどうしたの?」
心配そうな顔をした葵は顔を覗き込むようにして聞いてくる。辰巳と違い、真面目な彼女はうなだれている私を見て真剣に悩みを聞いてくれるようだ。
「確かに私も個展は大成功だったと思う。でも最終日に教授が岡本隆を連れてきて……」
「え、あの岡本隆?」
コーラを飲んでいた辰巳が吹き出しながら聞き返してきた。
驚くのも無理はないだろう、まさか世界的に有名な画家がたまたま日本に来ていて、たまたまうちの学校の教授と知り合いだったなんてとんだ奇跡だ。
葵も興味津々といったようで前のめりになりながら話を聞きたがった。
「それでなんて言われたの?教授はあんたのことが気に入ってるんだからいいように言ってくれたでしょ」
「教授はね、もちろん褒めてくれたけど」
個展の終わりがけに教授を連れていきなり現れ、一枚の絵だけを見て足早に帰って行った画家を思い出す。
「『綺麗な絵が好きな人には売れるだろうけど、君が何を描きたいのか伝わってこないな。心に響かない』って」
強がって笑いながら言ってみたが2人の顔を見るに空回りをしたようだ。
正直に言えば1番自信があった作品だっただけにその言葉を言われた時はショックを受けたが、何を描きたいか、と聞かれた時に答えられない自分に愕然とした。
取り繕った笑顔でこっちを見る教授の顔が余計に惨めに感じ、そうそうに退出していく二人を見てほっとした自分にも嫌気がさした。
何かを言わなければと思ったのか、葵が口を開きかけた時、正面から邪魔が入る。
「よし、こういう時は旅に出よう」
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