150年目の新人賞

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こんな小さな田舎町の事だ。 今をときめく美声の歌い手が住んでいたかもしれないとなれば、隠していてもすぐに誰なのか分かってしまうだろう。 だが町の人達も正体が分からない。そこにこちらも正体不明の妖怪らしきものが出る様になった。 『UTAYA』と結びつけたくなるのも分かる。 しかし、綾津小唄は『UTAYA』自身が歌って広めた様な物だし、何より先程ひふみ橋で、忽然と消えてしまった女性が小さな声で歌っていたのも綾津小唄だったはず。 自分を追い出す為の歌を自分で歌うはずがない。しかもあんなに見事に。 「でも『UTAYA』ってほんとにこの町の人だったら凄いよね!こんなに歌が上手い人いないよ!」 そうだ、それに伝説だと妖怪「夜話」は歌が下手なはずだ。 秀喜のスマホから『UTAYA』が歌う綾津小唄が流れてくる。何度聴いても凄い……いや、待てよ。 さっき直子さんが歌った時は少し違ったぞ。 直子さんの歌が正調だとすれば、もしかして……! 梨本は紙に書かれた歌詞を見つめる。 ひふみ、とこえて。 いつつ、むっつで満腹。 四つは無い。七つから先も。 明治の頃。 名前は夜話……ヨハナシ……? そうか! この歌に込められた秘密は「妖怪退散」だけじゃないんだ! ひふみ、とは橋の名前と言うだけじゃなくて…… だとすれば……! 梨本の中で一つの推理が成立したが、それを二人に話す前に聞いておかなければならない。 「直子さん、実はさっき、ひふみ橋で出会った女性に僕は名前を呼ばれたんです。 夜話はそういうイタズラもするのですか?」 「名前を!?いえ、初めて聞きました!怖い!」 「そうですか。いえ、大丈夫です。 もしかすると彼女は…… 俺と同じなのかもしれない」 「ええっ!?」 「もう一つお願いなのですが、ちょっと綾津小唄を歌ってみてくれませんか?」    「えっ、なんでまた?恥ずかしかですよ」 「おじさん、何かわかったの?」 「多分ね。秀喜君、推理をまとめておくから、明日一緒にひふみ橋に行ってくれるかい?」 微笑む梨本に、秀喜は思う。 あ、意外とイケメンかも。
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