150年目の新人賞

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首を傾げて秀喜が尋ねる。 「じゃあ俺達が知ってる『UTAYA』が歌うバージョンの綾津小唄は、魔改造されて妖怪が苦手な呪文じゃなくなってるって事?」 もしかすると、全国の民謡や子守唄にヨナ抜き音階が使われているのも…… いやさすがにそれはないな、と梨本は言うのをやめた。 「人前に出て来る為に、綾津小唄を自分にとって無害な物に上書きした。 そして、この町にも知らない人が増えた自分の存在を思い出して欲しかったのかもね。 つまり、『UTAYA』は『夜話』だろう」 「でも夜話は歌が下手くそなはずだよ?」 秀喜が言う。彼を見る梨本の瞳が熱い。 「子供達が遊んでいるといつの間にか現れて歌っている妖怪。特別悪い事をする訳じゃない。 何が目的だったんだろうね。 歌が好きで、歌を聴いて欲しかったんじゃないかな。そしてみんなと一緒に遊びたかったのかも」 そんな昔話もありそうだと直子が思ううちに、ひふみ橋が見えて来た。 「歌を聴いて欲しいのに、下手くそで聴いてもらえない。 だったらどうする?練習するしかないじゃないか。色んな人の歌を聴いたりしてさ。 そしてきっと、自信を持って歌える様になったから出てきたんだよ。今こそみんなに聴いて欲しいから。 ……俺には、妖怪の気持ちが分かる気がするんだ」 「あっ」 直子が何かを思い出した様に梨本を指差す。 それに笑顔を返すと梨本は橋の入口に立ち、すう、と大きく息を吸って歌い出した。
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