30人が本棚に入れています
本棚に追加
「はい。とごえとった子供達が気が付くと、こまんか声でなんさま下手くそな歌ば歌いながら、こっちば見知らん女性が見つめて立っとる、と」
「下手くそな歌を?」
「はい。
妖怪の名前は『夜話』と言われとります。
そっで綾津小唄は、元々は夜話ば避ける為の歌らしかとですよ」
直子は紙に綾津小唄の歌詞を書き出す。
「ええと……」
途中で詰まって、思い出す為に小さく歌う。ちゃんと歌えばきっと上手いだろうな、と梨本には想像出来た。
よかけん 来なっせ
うおなら 綾津
かえりにゃ覚える
いそのうた
たべなっせ ひふみとこえて
いつつ むっつで 満腹さ
ばってんなかなか来らっさん
「この歌詞の端……つまり「橋」を、縦さん読んで、最後の「さん」を足すと『ようかいたいさん』になるでしょう?二番も同じです」
「なるほど」
ひふみとこえて、とは橋の事か。
「この歌を子供達が覚えて歌う様になると、夜話は出んごつなったて言うとですけど。
この歌は秀喜も知らんかったくらいで、今じゃこの辺の年寄りくらいしか知らんかったとです。
それが『UTAYA』が有名になって知られるごつなった。
綾津に住んどっとじゃなかかて、梨本さんの他にもわざわざ遠くから来らした人はたくさんおらしたとですよ。
ばってん、それからです。
ひふみ橋に時々、白い着物を着た女性が現れて、人が見とる前で、ふっと消えてしまうとです。
特に悪さをする訳じゃなかとですが……」
「でも直子さん、それっておかしくないですか?
綾津小唄をみんなが知る様になったのなら、妖怪は出にくくなるはずじゃ」
「ね、変だよね。
でも同じ頃に出て来たから、もしかすると『UTAYA』は『夜話』なんじゃないかって言う人もいるよ」
最初のコメントを投稿しよう!