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義務教育六年にて
瑞志が卒業式で袖を通すための学生服が仕立て上がり、桜が蕾を持ち始めた頃、タマが再び朋代の夢に現れた。
『──……朋代ちゃん。あたし、人間界での徳は積み終わったの。これからは、お釈迦さまのもとで修行してくるわ』
「え──。タマ、それって……」
『毎日あたしの話をしてね。毎日ちゃーるを供えてちょうだい。水も忘れちゃいやよ』
愛の深さは徳の高さを示し、お釈迦さまのもとでも箔がつくのだと、タマは鼻息荒く語った。
『あっちでの修行が早く終われば、その分早く猫又になって帰ってこられるからね』
「タマ……お別れなのね?」
『違うわ。ほら、瑞志もお式で歌うんでしょ? あれよ、あれ』
卒業式の定番のイントロが、夢の世界に流れ出す。
人間の勉強が十分に済んだタマに、思わず吹き出して、朋代はしゃんと胸を張った。
「旅立ち、ね。……タマ様、いってらっしゃい」
『ええ、いってきます。元気で待っていてね、朋代ちゃん』
その朝は、アラームより早く、瑞志の泣き声で目が覚めた。
ニャアコが冷たいと……反抗期の片鱗も見え始めた瑞志が、人目も憚らず号泣している。
朋代は覚悟できていたはずなのに、いざとなったら自分も大泣きしてしまって、一言出すのもようやくだ。
それでもどうにかこうにか、猫又修行について瑞志に語った。
昔のように可愛くはない息子は、「そんなわけないじゃん」と怒ったように返したが、すらりと長いタマの尻尾を大事そうに撫でていた。
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