佐々山電鉄応援団 第3巻

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   研修会  軽井沢のインスタントハッピーカンパニー研究所ではなく、東京の渋谷ヒカリエの中にある日本支社で僕は猿山さんと研修会に参加していた。  広い会議室に80人位の制服、作業着、白衣の高校生が日本人だけでなく海外の高校生も含めて座っている。  桜庭支社長の他にインスタントハッピ―カンパニー日本支社の重役、見慣れない人達も大勢いた。  頭脳集団とか言われるだけあって、研修前なのに各自がノートパソコンで別の研究レポートや資料をまとめていて、ぼーっと座っているのは数人だけだ。 「君は、南場さんチームの新人さん?」  例によってメイド服だから南場チームと一目で解る。 「はい」 「噂になってるよ。潜入なのに即戦力って。どれだけウチは人材不足なのかね?」  九州の研究所から来た男子高校生オープンデータの天才技術者だという。 「まず解決したい課題、解決する為のデータ集めが大変だし重要になるんだ」と語りだし国税調査だとか県や公共団体が公開しているオープンデータの取得、解析する為の手順、使用するシステムとか難しい専門的な話を嬉しそうに語りだした。  レイヤとか緯度経度の座標、解析度とか僕には意味が解らなかったけど猿山さんが途中で助け舟を出してくれて相手は、ようやく話し相手ができたと満足して退散してくれた。  猿山さんは僕に「たぶん。今の奴とアタシ達は共同研究する事になるから愛想よくね」と忠告された。  研修会が始まった。 照明が落とされスライドが投影された。 研修会のテーマは地域公共交通活性化再生法の取り組みについてだ。  講師は国交省のスペシャリスト集団で組織されたスタートアップセミナー軍団と呼ばれるチーム。男女6人のチームだ。  実際は地方運輸局から派遣された人達。 「まずは地域公共交通活性化再生法についての概要です」  そういうと次の内容を語った。  地域公共交通の活性化及び再生を図る為、市町村が地域関係者による協議会を組織して公共交通総合連携計画を策定し、同計画に即して関係主体が取り組みを進める制度であること。  過去に、失敗や計画だけで実行が難しかったり、失敗した事を含め改正や改案、新しい制度が出来たり、消えたりした現状。鉄道やバスが地域から廃止や縮小を続け再生や再編に措置が有効に働かなかった。  地域の現状、地域公共交通に対する社会的要請の増大、地域公共交通に係る問題点と背景、解決の方向性、地域公共交通の充実に向けた新たな制度的枠組みの構築。  それらを踏まえて交通政策基本法などが施行されたが具体的に何をするかを決める協議会の存在が必要になってきた。  それは、鉄道事業者やバス事業者が好き勝手にアイデアや増収対策を提案するような話ではなく、自治体が定める地域公共交通網形成計画、地域公共交通再編実施計画の基づく計画をたたき台にする必要がある。そういう話だった。  僕の隣で、猿山さんは椅子の上で胡坐を掻き欠伸をしていた。  僕は、必死に資料の空白にメモを掻いたりして講師の話を聞き洩らさないようにするのが精一杯なのに猿山さんの余裕は少し焦った。  講師は「じゃぁ。そこの可愛いメイドさん。今の話を聞いて、君はどう思う?」と僕達の方を見た。メイド服は猿山さんと僕だけだ。  猿山さんは「アタシ可愛くないよ。はい。可愛い鈴木が回答するのよ。頑張れ」    僕は、慌てて立ちあがった。  「この制度のポイントは3つだと思います。ひとつは地方公共団体、沿線自治体が中心であること。ふたつめは、まちつくりや観光戦略など関連施策と連携させること。最後に面的な公共交通ネットワークを再構築する事だと思います。持続可能な地域公共交通ネットワーク形成です」  講師は満足した顔で「そうですね」と笑った。 「では。メイドさん。えーと失礼。鈴木優さんでしたね。では何故。地方公共団体いわゆる行政が中心になって取り組まないといけないのか解りますか?鉄道事業者やバス事業者ではダメな理由は?」  僕は「利用者が特定の鉄道会社やバス会社だけでなく様々な会社や目的、乗り換え、移動手段の選択があるので特定しないで総合的な地域間交通が求められている?」  講師は「半分正解で、半分間違いです」 「まず正解なのは確かに移動には多くの選択肢がある訳です。間違いなのは交通を軸に、まちつくり、市街地活性化、観光、医療、福祉など他分野に渡る分野を網羅して把握しているのは地方公共団体だから」  僕は、恥ずかしかった。 「ドンマイ」と珍しく猿山さんが微笑んだ。  この人、笑うと可愛いんだと思った。  続いて協議会の参加者について説明を受けた。会議の参加者であり構成委員だ。 「行政関係者、公共交通事業者、利用者、道路管理者、公安委員会、施設管理者、学識経験者など」協議応諾義務や結果尊重義務があるが、在りがちなのは交通事業者から「訳の解らない有識者の綺麗ごとの政策よりも年度ごとの増収対策と合理化が一番の鉄道、バス事業の特効薬」という持論を崩さずに、各自治体の方針に従わない姿勢が見え隠れしている懸念があるという。  区域内の公共交通モードの連携も、鉄道とバスの異業種連携や、別会社での協働が困難であること、鉄道やバス事業者幹部にまちづくり、観光政策連携を求めても公共交通事業者に精通した人材が居ない。  講師は「交通事業者でなく、行政側のマスタープランがダメな場合もあります」  いわゆる専門的な事や言葉を列挙しただけの具体的な事が記載されていない計画もあるというのだ。  講師は「みなさんはRRMSという自動運転システムの開発および実証実験の予定地での事前説明などの関係者とお聞きしています。まず、予定地でRRMSを地域課題解決に必要と思ってくれる案件について考えましょう」  猿山さんは、大きく伸びをした。 「ようやく本題か。前説が長すぎ」  講師は「最初に面的な再構築というキーワードがでましたね。これから説明します」  続けて「日常生活や観光客が混在する鉄道やバスの路線沿線について考えます。まず独占的な交通しかない場合を除き旅客は複数の移動モードを選択します。そのすべてを見直すのです」  講師は、ペットボトルの水を少し飲んでから「面的な交通とは何か?それは公共交通のネットワーク形成。それには調査が必要。ターゲット、ニーズ、 サービスの現状から問題点、課題を探します」  講師が話をしている中、猿山さんは「鈴木。さっきのオープンデータの奴。 こういう調査に使うんだよ。仲良くして損は無い」  そのあと二時間。途中休憩を挟みながら専門的な話を聞いた。  結果として、素人が資料をホームページで落とした計画書を読んでも、スマートシティとかコンパクトシティ、人口集計、パーソントリップ調査、観光、二次交通やスローモビリティ、DX的な知識が総合的に知らないと意味の解らないだけの資料になってしまうという注意喚起を受けた。  結果として、従来の鉄道事業者、バス事業者の言う増収対策、経営合理化という特効薬の効果が期待できない体質の社会情勢に変化している。そういう事らしい。  研修会が終わって講師がインスタントハッピーカンパニー日本支社を出てから渋谷の日本支社では、簡単な懇親会が開催された。立食式のオードブルとソフトドリンクだけの懇親会は、異業種の研究をするインスタントハッピーカンパニーの高校生と交流する場でもあった。  その中で、猿山さんは僕と別行動で様々な高校生と談笑していたけど、僕は会場の隅で一人で居た。  懇親会が終わり猿山さんから「臆しないで自分から話しかけないとダメよ」と視野や考え方を少しでも広げろと注意された。   
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