佐々山電鉄応援団 第3巻

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 沼川市役所  沼川市役所では、やはり佐々山電鉄問題での解決策が見つからず、僕が作成した資料が意外にも、直ぐに稟議が回り市長からの面談に漕ぎつけた。  沼川市役所の会議室で、佐々山電鉄関係の管轄部署である道路維持課の鬼瓦課長、商工にぎわい課の五十嵐課長、教育委員会の御手洗委員長、群馬県立沼川工業高校の田島先生、埼玉工業短期大学も長瀞先生でモビリティマネジメントの準備委員会に僕と美佳ちゃんも参加した。  僕と美佳ちゃん、そして佐々山電鉄応援団は正式に沼川市と佐々山町と協力体制を結んだ。  沼川市は、他に群馬県、近隣自治体である前橋市との交通とまちつくりに関しての技術提携や人材交流の提携も検討された。  会議の後に、沼川市教育委員会の御手洗委員長に僕と美佳ちゃんは別室に呼ばれた。 「ご時世柄ね。学校で反社会的な事。例えばセクハラ、パワハラとか無いよね」  僕と美佳ちゃんは黙っていた。 「行政的にはね。反社会的な団体とは仕事が出来ない。もし今回の君達との締結で不祥事が発覚したら沼川市が市民だけでなく全国に謝罪しなくてはならない大問題に発展するんだ。頼むから今のうちに膿は出して欲しいんだ」  僕と美佳ちゃんは、今回の件を話した。 「それって、もう組織犯罪だよ。困ったな」 「たぶん。もう終わっていると思います」 「なら、いいけど。また同じ扱いされたら直ぐに言ってね。ご時世柄。無かった事にできないんだよ」と本当に迷惑な顔をした。 再び会議が始まった。  今度は、渋沢町役場交通政策課の神園さんと、渋沢町教育委員会、渋沢DMO(destination Management organization)のプロモーター、そして地元の郷土紙・上毛新聞、群馬テレビの取材も入っていた。  ちなみにDMOとは観光地経営をマーケティングやマネジメントを通じて地域経営の手腕を使い観光を商品化する組織。いわゆる従来の狭義の観光協会と事なり行政、農林水産、飲食、商工業、宿泊、地域課題、そして交通など多様な関係者(ステークホルダー)に特化した人材のスペシャルチーム。  沼川市長も会議に臨席していた。 「佐々山電鉄の問題は、単なる鉄道事業者の問題だけでなく、我が沼川市全体の課題です。そして隣接する渋沢町、佐々山町にも多大な影響が出ています」  各自が自己紹介と所属を順番に紹介されていく、僕と美佳ちゃんは単に地元高校生代表という肩書で紹介された。  僕は、モビリティマネジメントについて説明をする役割を与えられた。 「まず、モビリティマネジメントとは、説明が難しいのですが勘違いされると困るのは、自動車を悪者にして電車やバスを利用して貰うのではなく、あくまでも自動車の利用を控え、賢く電車やバスを上手に使いこなすという、強制ではなく自主的に交通変容を促す方法……ですよね?」と僕は不安そうな顔で、長瀞先生の顔色を窺った。  長瀞先生はクスッと笑い「おしいな。八割方は正解だが不足してる。もっと丁寧に説明するなら”コミニケション”だな。モーダルシフト(自動車から公共交通に転換させる)は簡単じゃないんだよ。それを環境問題、地域課題、科学的根拠に基づく施策などを如何に地域の人達や、学校MM(モビリティマネジメント)で相手に丁寧に説明をして理解して、実践して貰えるかって話だ」  僕は「あー」と納得してメモを執った。  そして、長瀞先生は「まぁ。いい続けて」と僕に振った。 「よく鉄道会社やバス事業者が、交通安全教室やバスの乗車体験、増収対策と混同してしまうので明確にしていおきますが、大雑把に言うと、小学校ならゲームや電車やバスの乗車体験でも十分に適用できますが、中学生レベルになればCo2などの環境課題、データを与えて利用者の増減のグラフを書かせたり地域課題などの解決策などをグループワークでさせるなどグレードを上げます。高校生レベルですと地域大学の大学生または行政の実際に実施している施策や実証実験などの具体的な成果の検証、パーソントリップ、各自が地域の交通に応じたデータから具体的な未来像を模索するなど学習方法は変わります」  僕はその後モビリティマネジメントについて、アンケートや行動プラン表に ついての説明をしていった。  質疑応答では、行政の担当者、学校管理職(校長、教頭、学年主任)などの理解、生徒の学力レベルなどの対処について数件の質問が出た。  参加者には、一応の理解が得られた。  休憩に入ると渋沢町の教育委員会の男性が僕に名刺を渡しに来た。 「渋沢実業高校の生徒さんだよね。生徒会の関係者かな?教頭先生や岡田先生には、お世話になっているけど……」と僕は何者かという意味での質問。 「鈴木優です。あっちで寝ているのは佐藤美佳です」  渋沢町教育委員会の男性は「えっ」と驚いた。 「佐々山電鉄応援団の子?」 「はい」 「ちょっと待って?えーと、聞いてた話と違うぞ」と首を傾げた。  詳しく聞くと、僕達は教頭先生と岡田先生から、「嘘つきで無能な人間のクズで、先生方からも嫌われ対応に苦慮している問題児」と聞かされていたらしい。  沼川市の市長が、「渋沢町さん。何処でガセネタを掴まされていたかは存じませんが、鈴木君と佐藤さんは沼川市の重要な人材です。嘘つきで無能な人間のクズとか言ってる情報に踊らされているようですね」と僕の肩を叩いた。  悔しそうに渋沢町の教育員会の男性が携帯電話を握りしめ廊下に出て行った。  よく、僕の知らないうちに周囲の人が僕を見て嫌な顔をしたり、一喜一憂したりしているのを見て「どうせ岡田先生が僕の悪口を言っているのだろう」と思っていたけど予想通りだ。  市長が「鈴木君が本気で活動をすればするほど、岡田先生の虚偽が世間に知れ渡るなぁ」と逆に岡田先生の進退を心配していた。  インスタントハッピーカンパニー研究所や、僕が世話になっている関係者が「関わるな」と言った意味は、僕と美佳ちゃんが周囲から認められていく過程で、小さな組織内で僕達を陥れようと模索しても、何が嘘で本当なのかは社会全体に明るみに出た段階で第三者がジャッジしてくれるから、下手に騒いだり自分を擁護しないほうが良いという警鐘らしい。  
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