佐々山電鉄応援団 第3巻

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 後日、沼川西地区説明会。  沼川市と佐々山電鉄応援団は招かれない、沼川の西地区の住民有志の勉強会。  沼川西地区のリーダーは、鉄道事業者の独自採算性のある日本経済において自助努力が不足している佐々山電鉄の怠慢経営による事故で、公的支援を貰い再生するのは企業の甘やかしだと主張しているそうだ。  とりあえずRRMSについて概要を知りたいという事でインスタント・ハッピー・カンパニー研究所が住民説明会に招かれた。  僕は、チャンスとばかりに参加した。  南場さん、猿山さん、僕と京子ちゃん。  沼川西地区のニュータウンの小さな公民館ではなく、丘の上の旧・西地区の大きな公民館で開催された。  僕達の乗ってきたRRMSバス(電気式の日野ポンチョ)を公民館の前に停車させて、近所の子供達に体験乗車で解放している。  この日のテーマは、沼川西地区にコミュニティバスを走らせる方法についての勉強会だった。  沼川市内には民間路線バスが3社、国越バス、高崎バス、JR北関東バス。  そして沼川市のコミュニティバスは4系統、トヨタハイエースを改造したワゴンタイプで、デマンドではなく循環タイプの定期便。北循環、東循環、南循環、西循環がある。 地域の公民館なので玄関とお勝手、トイレと畳敷きの大広間があるだけだ。 そこに座卓の長机に座布団を敷き、約60人ぐらいの大人が雑談をしている。  議長の席が中央にあり、インスタントハッピーカンパニーはプロジェクター代わりの小型ロボがあるのでスクリーンだけを用意して貰っている。  未就学児の女児がバタバタと廊下を走り母親が叱ったり、赤ちゃんが泣いたりと、普段のシンポジュームや勉強会とは違い、本当に地域住民が自分達の交通問題を解決しようと集まっているのが理解できた。  ただ、残念なのは熱意が佐々山電鉄を残すことではなく、佐々山電鉄を廃止にして代替え交通についての解決策を求めている事だ。 「始めます」  マイクを持ったのは大手コンサルト企業の役員だ。 「えーと、今日はインスタントハッピーカンパニーのお嬢さん達に来てもらいました。RRMSという自動運転の次世代路面電車。皆さんもご存じの宇都宮の黄色のカッコイイ路面電車ね。アレの自動運転版。正式にはLRTって言うんだけどね。昔、渋沢軌道があったから、ある意味では路面電車の復活だね。今回はウチの目的はBRTってバスの方。楽しみだね」  南場さんがペコリと頭を下げてからマイクを渡されて喋る。  僕達も、慌てて頭を下げた。 「ご紹介に預かりました。インスタントハッピーカンパニーです。今日はお招きいただきありがとうございます。今日はお世話になります」  議長は、沼川西地区に在住し東京に通勤している大手コンサルト企業の役員、医師、ベンチャー企業の社長の3人。  それは、一癖も二癖もありそうな知的な顔ぶれだった。 「自動運転の天才集団ねぇ。お手並み拝見ですかねぇ」  ベンチャー企業の社長は大学生の時から自動運転の開発に携わるというだけありインスタントハッピーカンパニーを少し馬鹿にしたような顔をした。  医師は、冷静な顔で「前に前橋の説明会のユーチューブみたけど。過疎地のドローンでの医療技術って何なの?凄く興味あるけど。それ今日は聞ける?」  僕は、侮っていた。  いまでの学校MM(モビリティマネジメント)とか、市役所の人が出前授業とかで同行していたけど、今回の住民説明会はトンデモナイ人達を相手にする。  インスタントハッピーカンパニーは、前橋市での発表会と同じ動画を流した。 沼川地区の住民たちは見終わると自動運転の素晴らしさを絶賛した。  ベンチャー企業の社長だけは不敵な笑みを浮かべた。 南場さんは「嫌な奴が居るな」とつぶやく。  案の定、ベンチャー企業の社長が挙手をした。 「南場さん。レベル4の自動運転。RRMSも該当しますけど。本当に過疎化地域の交通問題の特効薬だと本気で思っていますか?」と馬鹿にするように笑った。  南場さんは、「チッ。気が付きやがったか」と舌打ちをした。  面倒さそうに南場さんはマイクを取り「思ってません」と回答した。 むしろベンチャー企業の社長の方が驚いていた。 南場さんは「自動運転のメリットだけを表面に出してデメリットを隠すのはフェアじゃないので正直に話します。レベル4の自動運転は、条件によりますけど、今の人間の運転士さんがバスを運転すれば1名で運行できます。でもRRMSは、遠隔制御の監視員、運転しなくても運転席には異常時に備えて保安要員を乗務させるか、事故対応に駆け付ける保安要員も必要になります。バカげていますけど無人運転、人件費削減、バス運転士不足解消をアピールしている多くの自動運転のベンチャー企業が承知していて黙っている部分です」 「うん。正直に話してくれてありがとう。彼女達は信用できるよ。自動運転の技術は殆ど整っているけど、法令や道交法とか縛りが多いんだよ」  ベンチャー企業の社長は満足そうに着席した。  そして、僕達は逆に沼川西地区のコミュニティバスを運行する話の経緯を聞かされた。  佐々山電鉄が定期路線バスを廃止を、廃止予定日の6か月前にバス停に張り付け地域住民への説明会を開催した。  その時に、佐々山電鉄は同路線を、国越バス沼川営業所に路線譲渡をするという話だったが、実際は国越バスは不採算路線として引き継がれる事は無いまま廃止になった。  沼川西地区は、沼川市のコミュニティバスで近くまで走っていた西循環のコース変更を沼川市側に求めたが、一時間で周回するダイヤの為、西地区だけ迂回をしてバスの所要時間が延びると、他のコースとの接続が悪くなるとして却下。  その後、沼川西地区は通勤の為、早朝、深夜にも運行可能な地域間の新たなコミュニティバス路線開設を求め陳情したが、市役所の道路維持課が早朝、深夜の運行の困難さとタクシー業界からの反発があり却下されていた。  市長が変わり、一度だけ実証実験を行い地域特性、移動特性、費用効果、需要を調査しワゴンタイプのコミュニティバスを運行しデータを計測したが、バスでは無く、タクシーを使用したデマンド方式なら可能との結果が出た。  沼川西地区では、タクシーはバスではない、デマンドでは高齢者がスマートフォンの操作に不安があり賛成できないとして住民側が拒否した。  そこで、無人運転RRMSによる車両購入コスト、人件費、ドライバーレスの期待を込めて招かれたが、現実の自動運転レベル4の実用化には、実は多くの高いハードルがある事を隠して、南場さんがセールスするか試されたらしい。  結局、なにも決まらないまま、その日はお開きにった。  沿線全体で取り組める課題
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