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「私が死んだときのために、下原先生が仰っておられたように、前もって遺産の分配を決めておくことにしましたわ」  真光寺君枝はしめやかに言った。  下原敦典はようやく君枝が、所有している遺産を生前に整理すると言ってくれて安心した。 「では遺産をお書きになったのですね」 「いえ、それはこれから、先生と一緒に書きたいと思いまして」 「私とですか」 「ええ。先生が中身を知らないのもお困りになるかと思って」  君枝は穏やかな笑みを浮かべた。  ペンと紙を用意した。  君枝はペンを取り書き始めた。 「福祉施設<虹の家(レインボーハウス)>に十分の三を。家政婦の早田あかりさんに十分の二を。あかりさんの息子の島本拓也君に十分の一を。山村華さんに十分の二を。<虹の家>の施設長の平川良久さんに十分の一を。桃崎カンナさんに十分の一をわけ与えます」  下原は困惑した。いつの間に分与する相手が増えたのだ?  下原が考えていたのは<虹の家>に半分。残り五分の三が家政婦で五分の二が桃崎カンナ。 「どうかしましたか、先生」  君枝が訝しそうに訊いた。 「あ、いえ、何でもありません」 「これが平等な気がするんです」  と君枝は優しい笑みを浮かべたのだった。
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