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放課後。
優里はいつものように、教室の外にいた。外といっても廊下ではなく、窓の外の方である。四年二組の教室は一階なので、後ろのドアからすぐ外に出ることができるのだ。
彼は教室の外にあるプランターのパンジーに、毎日一人で水やりをしているのだった。植物が好きらしい。私や他の生徒が忘れてしまう水やりを、彼はけして欠かしたことがない。
「お花、綺麗ね」
「!」
私が声をかけると、彼はじょうろを持ったままびくりと肩を震わせた。そして、なんですか、と小さな声で返してくる。――どうやら叱られると予想しているらしい。実際、その通りなのだが。
「お花が好きなんでしょう?将来、植物の学者になりたいとか言ってたっけ。……そういうものになるためには、一生懸命勉強しないといけないんだけど……実渕くんは、勉強嫌いなの?」
「……別に」
彼は困ったように、首を横に振った。あれ?と私は不思議に思った。勉強が嫌いだから授業をサボるのかと思っていたのに、違うのだろうか。
「勉強が嫌いなわけじゃないの?なら、どうして授業に出ないの?」
「…………」
私の問に、彼は唇を噛んで俯いてしまう。言いたいことがあるなら言ってほしいのに。そうやって黙っていては、何も伝わらないではないか。
「あのね、みんななりたいものになるために勉強してるし、授業に出てるの。だから、実渕くんも授業に出ないと。サボっていたら、頭良くなれないし、なりたいものにもなれないのよ?」
少年は、相変わらず沈黙したまま。仕方ない、と私は切り札を切ることにした。
「……出てくれないなら、三者面談でお母さんに、君が授業に出ないことを言うしかなくなるんだけど」
「やめて!!」
私の言葉を遮るように、彼は甲高い声で叫んだ。真っ青な顔で、やめて、おねがいやめて、と繰り返す。
「言わないで、お母さんに言わないで、お願い!」
「で、でも実渕くん、だったら」
「言わないで!が、がんばるから、がんばるから言わないで!!」
「え……」
彼はそのままじょうろを置くと走って逃げていってしまった。私は茫然とその場に取り残されることになる。
頑張るから。それは、前にも彼が私に言った言葉だ。授業に出て欲しいとお願いしたら、彼は“頑張るから”と答えたのである。でも、結局改善しなくて、今に至るわけだけれど。
「そんなこと言われても……」
頑張る、では困るのだ。どうして次からやめる、と言えないのか。
小さな子供相手にとは思うが、正直イライラしてしまったのは事実だった。
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