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「と、いうことがあったんだけど。あんた的には、どう思う?」
困り果てて私が頼ったのは、弟の雅だった。
二十五歳の私には、年の離れた弟がいる。現在十一歳の雅は、私が赴任した学校に現在進行形で通っている生徒だった。小学校五年生とは思えないほど頭がいい少年である。同居していることもあり、困った時は時々こうして相談事を持ちかけているのだが。
「……あのさあ、そいつほんとにトイレでサボってんの?」
彼が開口一番に言ったのは、それだった。
「サボってる、つーのはその風紀委員女子の……灰田サンだっけ?その人が言ってるだけなんだよな?」
「でも、お腹壊してるわけでもなさそうなのよ。いつも同じタイミングだし、トイレに入っていたのは他の男子も確認してるから間違いないはずだもの」
「具合も悪くないのにトイレに入る理由、イコールサボりって決めつけんのは早計だと思うんだけどな。それに今、姉貴“いつも同じタイミング”つったよな?どういう時にトイレに籠ってんだ?休み時間でいっつも、じゃないんだろ?」
「え?それは……三時間目の前とか、五時間目の前とか」
あれ?と私は首を傾げた。
そういえば、彼がトイレに籠って出てこなくなっているのは三時間目の前か五時間目の前ばかりではなかろうか。
そこの共通点は一つ。
長い休み時間のあと、ということだ。小学校では三時間目の前に二十五分休みがあり、五時間目の前にお昼休みがあるのである。
「姉貴の話通りだと、そいつ作文得意なんだよな?つまり、国語の授業も苦手じゃないわけだ。で、運動神経は良くないから体育は苦手。……マジでサボりたいんだったらさ、国語の授業は出て、体育の授業でサボると思わね?」
俺ならそーすっけど、と雅。
「授業でサボるものを選んでるんじゃない。時間で選んでるつーことはさ。長い休み時間の前に、なんかトラブルが起きてる可能性はないの?」
「トラブル……」
まさか、いじめだろうか。思わず顔から血の気がひいてしまう私。去年の泥沼の争いを思い出してしまったからだ。あんなのはもう二度とごめんだ、と思っていたのに。
「姉貴、姉貴。あのさあ、いじめなんか起きてほしくないって思ってるだろうけど、その思考教師としてふつーに駄目だから」
青ざめる私に、弟はにべもない。
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