第1話 運命のイタズラ

1/1
前へ
/3ページ
次へ

第1話 運命のイタズラ

   いつも通りの朝。いつも通りの1日が始まるはずだった――  あたしらは、学校に行こうと通学路(つうがくろ)を歩いていた。   「陽菜(ヒナ)!」  突如(とつじょ)として現れた黒い(ひず)み。妹の陽菜乃(ヒナノ)が飲み()まれた――あたしも咄嗟(とっさ)にその中へと飛び()む。 「陽菜(ヒナ)ー!!」  暗い空間。光もなくただ(やみ)が広がる中、彼女の名を(さけ)ぶ。  無重力(むじゅうりょく)空間に放り出されたように彷徨(さまよ)って――――光が見えたと思ったらスゴい力で引き()せられる。  木々の生える森の中、空中に現れたのだろう黒い(ひず)みから(ほお)り出された。  (さいわ)い高さもなかった。あたしは普通(ふつう)に地面に着地する。 (そんなこと、どうでもいい……! 陽菜(ヒナ)は――!)  あたしは自身に(そな)わった力で陽菜(ヒナ)気配(けはい)を探す。森の中。広い森の面積(めんせき)から(さら)にその外側(そとがわ)へ。 (陽菜(ヒナ)――!)  あたしは(がら)にもなく(あせ)る。近くどころか、範囲(はんい)を広げても見つからない。範囲を広げていて(わか)るのは、この場所が広大であることだけ。  だからあたしは理解する。――ここは、ホントに断絶(だんぜつ)された世界『メソポタミア』なのだと。  メソポタミア。なんでそう呼ばれているのか、それはさすがに知らない。  けど、生きて帰ってきた人による情報によって、黒い(ひず)みの先には古代(こだい)文明が広がっていて、そここそ、上は宇宙(うちゅう)まで(つな)がる黒い空間に(おお)われて断絶(だんぜつ)された世界、メソポタミアだろうと()われていた。  大昔から、上は宇宙(うちゅう)まで広がる黒い空間に(おお)われた場所があったと()う。その場所は、未だに中の見えない場所として存在しているらしい。変わらず、黒い空間に(おお)われながら。  生きて帰れるかも(わか)らない世界、メソポタミア。だから、(けっ)して黒い(ひず)みに飲み()まれてはならない。それが世の中の当たり前の認識(にんしき)だった。  ――知ってる。(みずか)ら黒い(ひず)みに飛び()んだあたしが異常(いじょう)だなんてことは。  けど、後悔(こうかい)はない。きっと母さんも許してくれる。  だって、(うしな)うなんて、あたしにとってあってはならないことなんだから。もう2度と。 ((うしな)ったのは父さんだけで充分(じゅうぶん))  そうだわ。もう2度と、家族を(うしな)わない。絶対、あたしが(まも)ってみせる。  だから、異常(いじょう)だろうと関係ない。あたしは陽菜(ヒナ)を見つけて、彼女を危険(きけん)から(まも)る。そんなこと、考える間もなく心に決めていた。 「(むすめ)――名は?」  それは、日本語だった。この断絶(だんぜつ)された世界に、日本語が通じるヤツがいるとは思わなかった。  (あせ)っていたあたしは、その言葉に答えることなく走り出そうとした――――けど、距離のあった気配(けはい)は一瞬で()()めていて。あたしの(うで)(つか)む。 (空間(くうかん)魔法(まほう)――!)  瞬間(しゅんかん)移動(いどう)かは判断(はんだん)できないけど、ソイツはたしかに空間魔法を使った。  時空(じくう)魔法(まほう)(とき)魔法と空間魔法に分かれ、時空魔法は最上位(さいじょうい)魔法の1つとされていて。とうぜん、空間魔法も上位魔法だったんだ。 「(はな)してもらえますか」 「ここがどこか、理解(りかい)していないようだな」  あたしが(うで)を離すように口にすると、同時にそう返ってくる。男の()い赤色の双眸(そうぼう)があたしを(とら)えた。 「……この世界の住人、ですね。その格好(カッコウ)」 「……そうさな。その言いよう、理解はしていたか」  あたしが言葉を発すると、古風(こふう)(しゃべ)りでそう反応する男。   「して、(むすめ)。ここがどこか(わか)っているというならば、元の世に戻るのが至難(しなん)(わざ)であるのも理解できよう?」  まるで古文に出そうな接続語(せつぞくご)で、男はそう口にする。 「もう1度言います。(うで)(はな)してもらえますか」 「話を()らすな」 「わたしは急いでいます。それを邪魔(ジャマ)するなら、いくら初対面(しょたいめん)と言えども(ゆる)さない」  そう口にすれば、男の口角(くちかど)が上がる。   「ほう? 面白(おもしろ)いではないか。どうすると言うのだ」  それは(あつ)だった。圧倒的(あっとうてき)な力を解放(かいほう)したオーラ。  男から発せられる(あつ)があたしを(おそ)った。――けど、あたしの(のう)(あせ)るどころか()えていく。今のあたしは、いつもよりももっと、()めた目をしているだろう。 「ぬ!」  あたしは自身に(そな)わった力を使って、女とは思えない力で男の指が外れるように(ひね)った。そしてそのまま男を投げ飛ばす――と同時にあたしは、常人(じょうじん)じゃない速さで走った―― (()がしたか――まあ()い。元の世に戻るというなら、いずれ(まみ)える運命(うんめい)よ)  そう。男の思惑(おもわく)なんて、あたしは知らないんだ――  
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加