ボーダーライン

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「もういいですか。次のお客様お待ちなので」 「あ、はい」  麻衣が立っていた足場の手前に居たツナギ姿の男性が、慣れた感じで和己にセイフティーエリアから退くように促した。和己は素直に欄干から体を離し出口通路の先へと向かった。  無抵抗にロープにぶら下がった麻衣は、引き上げられると出口へと駆け出し笑顔で和己に抱きついた。 「先輩、なんなんですあれ?」  ワイヤーロープを絡まないように束ねる青年が、熱い抱擁を交わす和己と麻衣を見て尋ねた。問い掛けられたツナギ姿の男性は、ハーネスの点検をしながら鼻を鳴らした。 「東京から来る、ぶっ飛んだカップルだよ。喧嘩したら飛び降りのシミュレーションで互いの大切さを確認するんだと。ただの趣味レーションとしか思えないけどな。いい加減セリフも覚えたわ」 「毎回やるんですか、あれ!」 「誰かが動画あげてバズったとかで、パターンが増えてきたけどな」 「先輩……。お疲れ様です」  青年の哀れんだ瞳に、ツナギ姿の男性は「おう」とだけ応えた。  和己と麻衣の行動が、バンジージャンプ施設スタッフがお客様に許せるボーダーラインだった。 〈おわり〉
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