ボーダーライン

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「いや! 来ないで!」  絞り出された麻衣(まい)の声は、髪や涙と一緒に強風に流されそうだった。 「覚えてる? 僕には君が必要だって。傍にいてくれって言ったよね」 「覚えてるよ。今だって気持ちは変わってないよ」  落ち着かせようと和己(かずみ)が手を差し伸べると、麻衣が一歩後ろに下がった。鉄の足場がカツンと鳴った。 「麻衣。頼むから落ち着いて」  差し出された和己の手を、麻衣は両腕を胸に抱く事で拒絶した。 「私嬉しかった。かず君を守りたいって思った。それなのに仕事だからって、接待なんだからって。いっつも私は家で一人! 一緒になっても一人の時間が多いなら、ずっと独りのままの方が良かった!」  和己は口にしかけた言葉を飲み込んだ。今「仕方ない」なんて口にしてしまえば、麻衣は身を投げ出してしまうだろう。その足場の先には、自由すぎるほどの空間が広がっていた。  刹那、風がやみ静寂が訪れた。それは和己に最後の言葉を促しているかのようだった。 「僕が悪かった。努力する、いや変えてみせるから。お願いだ。落ち着いてこっちに」
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