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◆◇◆
「ん……」
ひんやりとしたシーツの感触で目が覚めた。俺はあのまま眠ってしまったようで、すっかり夜が開けていた。それどころか、もうかなり日が高い。今日は休日であることを確認すると、またシーツの中へと潜り込んだ。
「翠、起きた? そろそろ何か少しは食べないと。潜入先、食事がろくにでないところだったんだろ?」
蒼はすでに起きていたようで、長い髪を低い位置で結んでいた。その後毛が俺の首をくすぐっている。何度も軽いキスを落としながら、優しく俺を起こしてくれた。
「んー、わかった……」
ケアは成功していて、目覚めた俺の体からは、疲労が全て抜けていた。シールドの修復も終わっている。体へのダメージといえば、気持ち良すぎてなってしまった筋肉痛くらいだろう。体を疲れさせて寝落ちさせようとしていたからか、最後はかなり激しかった。それを思い出し、ゾワゾワと疼く体を宥めながら、俺はゆっくりと体を起こした。
「大丈夫? はい、ここおいで」
蒼がヘッドボードに背中を預け、俺を足の間に座らせた。昨日の浴槽でのスタイルと一緒で、基本的にケア後の甘やかしはいつもこの態勢になる。
「はい、これ。取り敢えずスープ」
そう言って、野菜がたっぷり入ったコンソメのスープを掬って冷ましてくれている。俺はさながらお母さんに面倒を見てもらう赤ちゃんだ。
少しだけ恥ずかしい思いをしながらも、こうやって甲斐甲斐しく世話を焼いてもらえることを素直に嬉しいと思う。頬を緩ませながら、スープを運んでもらうために口を開けた。
「あ」
少しずつ運んでは「美味しい?」と訊かれ、俺はそれに小さく頷く。目の前には青い空が広がり、今は俺たちの休日を脅かすものは何もなかった。
「いい休日だねえ」
俺を抱きしめながら、蒼が呟いた。同じことを思ってくれていることが嬉しくて、俺は「そうだな」と答えながらにやけてしまう。
「あ、でもさっき田崎から電話があったよ。メッセージしとくって言ってた。はい、スマホ」
「あー、そうだった。悪い、玄関に置いてきた紙袋持ってきてくれねーか? あれに田崎から預かったものが入ってるんだよ」
すると蒼は、「はいはい、これね」と言いながら、サイドテーブルに置いてあった荷物を取り出した。昨日俺が廊下に置きっぱなしにしていたものを、持ってきてくれていたらしい。
何も言わなくてもこうやって色々とフォローしてくれる。蒼の優しさに毎日惚れ直してしまう俺は、付き合い始めてからずっとときめいていて、心が忙しくて大変だ。
——浮気の心配が無いのが本当に救いだよな。
そう思いながら、スープを堪能した。
「あー、これだよ? 翠、これを試せって言われてるの?」
蒼は田崎からの荷物を箱から出していた。俺はスマホへ目を落としていて、『使用感を全センチネルに確認するから、ちゃんと使えよ』という文字を見ていた。
「なあ、それなんなんだ?」
顔を上げて蒼へ訊ねると、嫉妬を拗らせた時にだけなる無表情の顔がそこにあった。その手に握られていたのは、ブジーだった。
「えっ? そ、それを試せって言ってんのか?」
「そうみたいだね。なんでオッケーしたの? これ、なんのために作られたか覚えてる?」
「いや、オッケーなんかしてない……社長なんだから、安全性を試すなら真っ先にやれって言われて……」
蒼は昏い目を俺に向け、「ふうん」と一言呟くと、それっきり何も言わなくなってしまった。
「あっ! ちょっと……何、使うのか? やめ……」
乱暴に部屋着の下を全て剥ぎ取られ、また後ろから抱きしめるように俺を座らせた。さっきと違うのは、膝を曲げた状態で足を開かれ、まるで医療行為をするような冷静さで熱を触られていることだろう。
「っ、やめ……」
そして開封したセットの中からラテックス製の手袋を取り出し、それを嵌めながらじっとりとした視線を俺に突き刺した。
「このブジーは、外側は体温で溶けるようになっていて、溶けたものは軽い麻酔作用があるため、痛みなく挿し進めることが出来ます」
説明を読み上げながら、その先端を入り口に当てた。
「やっ……待って、蒼、い……」
「最初は、ブジーの先端を亀頭に当てて溶かしてください。そして、その溶解したものを数秒放置してから、ゆっくりと回転させながら押し進めます」
説明の通りに先端に当てられたブジーが、くるくると撫でるように刺激していく。恐怖に震える体に思いもよらない刺激が加わり、思わず腰が跳ねた。
「あ、あんっ!」
どうやらその声に、蒼のスイッチが起動してしまったらしい。途端に耳元に息が熱くかかり始めた。そして、ブジーの先端を俺の小さな隙間につぷりと挿し込んだ。
「ひぃっ」
痛みや違和感を想像していた俺は、思わず体を強張らせたが、昨日のケアが効いているからか、状態は悪くならなかった。それどころか、麻酔が効いている尿道にスルスルと入り込むブジーが、やわやわと刺激を繰り返し、後孔はいつの間にか勝手に収縮を繰り返していた。
「ああ、やあ、何これ……」
「……痛くないの? やってる俺が見てると痛いんだけど。でも、その声すごいかわいい」
蒼は説明書にある通りに、軽く回転させながらどんどん中へとブジーを挿し込んでいく。気がつけば俺は快楽に飲まれていて、痛みは全く無くなっていた。
「……すごい、全部入ったよ。じゃあ次は……。ブジーの手元の方についている、薬液の入ったバッグを潰して割ってください。そこから膀胱へと液体を注入します……え、本当に?」
「ん……、え? 膀胱に何か入れて大丈夫なのか?」
気持ちよさの波の中に取り残されたまま、不穏な言葉に肝が冷えた。ただ、抵抗しようにも、蒼が手を握ってガイディングし始めてしまい、居心地の良さから抜け出せなくなってしまった。
「えーとね、あ、大丈夫みたいだよ。膀胱内でゲル化しますが、のちに排出されるので無害です、って書いてある。あー、なるほど。そう言うことなんだ」
蒼は説明書を読むと、その薬液の入ったバッグを指で捻り潰した。気のせいか、また少しお怒りモードが強まった顔をしている。
「そして、このタイミングで尿道内に止まっているポリマーが固まるように、体温をあげてください……。どうする? 本当はこれ使うんだけど、俺の口でもいい?」
そう言って俺の目の前に出してきたのは、なんと電動のオナホだった。俺の人生に関わりの無いもので、見るだけで思わず赤面してしまった。
「なっ、なんでそんなもん……これ、なんのトライアルなんだよ! いい加減に教え……」
俺の言葉にイラつきを隠せなくなったのか、蒼は俺を寝かせると急に俺の足元の方へと動いた。そして、俺の手に説明書を渡すと、体温を上げるために俺のいいところだけを全部一度に攻め始めた。
「あっ! あっ、んっ、んんっ! はあっ、だめ、すごい気持ちっ……」
ガクガクと揺れる腰を思い切り掴まれ、口の中では優しく舌が絡み付いている。熱くて柔らかくて優しい舌に翻弄されて、閉ざされた先端からは何も出せないのに、思わず思い切り果ててしまった。
「んーっ! んうっ、あああっ!」
強烈な快楽に襲われてぐったりしていると、蒼は立ち上がったままの俺の熱の塊をじっと見つめていた。そして、ぼそっと一言「はい、準備完了」と冷たく言い放った。
「翠、読めないだろうから伝えるけど、これ、『センチネルとガイドがネコ同士だったらどうするか』って言う問題を解決するためのツール。だから、使用感を確かめるためには、ネコ同士のセックスが必須なの。それで、田崎がこれを持たせてるんだよ」
「はあっ!? そんなの、ちゃんと説明しておかないとダメだろ! 俺は絶対蒼以外とはしねーからな! オナホ……そうか、これは田崎なりの気遣い……いや、じゃあちゃんとネコ同士で試して貰えばいいじゃねえか! あいついっつもなんかズレてんな!」
そう言っているうちに、どうやら膀胱のポリマーがゲル化したようで、下腹にズーンと何かを感じるようになってきた。それが体重移動のたびに襲ってきて、気がつくと完勃ちの状態に……。俺は驚いて声も出なかった。
「これ、つまり本人の意思とは関係なく、勃たせることが出来るってことか? それじゃあVDSの精神に反するんじゃ……」
狼狽える俺に、蒼が深いため息を溢しながらキスをくれる。それだけで動揺は収まったけれど、納得は行かなかった。
「潜入終わったばかりだから、忘れてるんだね。これは命がかかったような緊急時にだけ使用するためのツールなんだよ。レベルの低いセンチネルだとケアは必須だし、その時ネコのガイドしかいなかったら大変だろ?」
「……じゃあなんでセンチネルにトライアルを頼んだんだ? ガイドに……」
そういう俺に答えずに、蒼は何気ないふりをして一気にオナホを突っ込んで来た。
「っふあああっ!」
矯正的に立たせられたものに突っ込まれたオナホが、カチッっというスイッチの音と共に激しく動き始めた。
「タチだって、好きな人以外には挿れたくないからじゃ無いかな。これならとりあえず、誰も傷つかないと思ったんじゃない?」
そう答える蒼の言葉に納得しかけた俺は、初めての強烈な刺激にすぐに思考を放棄してしまった。
「ああっ! あ、あ、やだあっ! あ、なんだこれ……ひぃっ!」
「……挟まれてるんだろ? すごい顔してるよ、翠。かわいい……必死に腰振ってる」
お怒りモードだった蒼は、どうやら俺の痴態を見て興奮し始めたらしく、乗り気になって肌に手を滑らせたりしてくれるようになった。これで俺も矯正的な自慰行為のような感覚から抜け出すことが出来て、快楽に身を任せることに抵抗が無くなった。
「あっあっ……あああっ、気持ちい……んっ」
膀胱に溜まったゲルと同時に、ブジーの中身もどうやらゲル化したようで、いいところを突かれながら、腰が揺れるたびに膀胱にそれを押し付けるような形になっていく。快楽の無限ループに落とされたようで、熱の高まりと共に気持ちよさは加速する一方だった。
「前立腺への刺激が、ブジーからと相手の体にぶつかることで起こる膀胱との摩擦で得られるため、体が勝手にタチの性質を学べます……恐ろしいな。でも、緊急時だけの使用と考えれば、ツールとしては合格だよね」
蒼は俺を抱きしめて、胸に触れたりキスを落としたりしてくれているだけだった。俺は自分でオナホを握り、それに向かってひたすら腰を打ちつけていた。
そこに快楽はちゃんとあった。何度出したかわからない。でも、心が満たされず、だんだん悲しくなりつつあった。
「蒼、トライアル、もういいだろ。お願い……」
俺は心の底から満たされたくなって、愛しい男に手を伸ばした。
「うん、恋人同士の方ね」
そう言ってふわりと笑うと、俺を抱きしめてくれた。
「ポリマー吸収されるまでまだ時間がかかるはずなんだ。この状態で俺が入るとどうなるんだろうね」
「えっ?」
まずいかもしれないと思う頃にはもう遅く、熱り勃った熱の塊がゆっくりと俺の中へと入ってきた。
(了)
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