長嶺健太は世界一カッコいい

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 ――ブブブ。  携帯電話がバイブした。  それで、俺は昔の話を思い出すのをやめた。  教室の女子は、大橋の話題から、もう違う話に移っていた。  メイクの話をしているらしい。  画面を見て俺は焦る。  俺は急いで教室を出た。  小走りに校門へ向かった。  校門に背の高い女子が佇んでいた。  その女子を横目で見ながら、帰宅していく生徒が囁いていた。  「あれ、大橋ヨリカじゃね?」  「まさぁ、こんなところにいないよぉ」  俺は背に高い女子の傍に駆け寄る。  「依花(ヨリカ)。急に俺の学校になんか来んなよ。目立つだろう?」  大橋が言う。  「急に、撮休になって」  大橋が俺の腕に手を絡める。  辺りにいた生徒がざわめく。  「いいのか? 俺なんかと付き合っているのバレて」  「私はアイドルキャラじゃないし。ファンは女子ばっかだから、男の人とお付き合いしていても問題ないよ。インタビュー受けてる時も、ちゃんと言っているし」  「そう言う意味じゃ……」  「え? どう言う意味だったの?」  ――”俺なんか彼氏じゃイメージダウンになるんじゃないか”という意味だと、喉まで出かかって言うのをやめた。    人だかりが出来始めていた。  俺は気にして言う。  「行こう」  俺たちは大橋の手を解いて歩き出す。  歩きながら俺が言う。  「それと、インタビューであれ言うのやめて」  「あれって何?」  「私の彼氏は、世界一カッコいいんですって言うの止めて欲しい」  「だってぇ。私には大橋くんは、世界一カッコいいんだもん」  「絶対違うだろう? 俺はカッコよくないだろう?」  大橋が、俺を見下ろしながら言った。  「だってぇ。長嶺くんが大好きだから」  俺は周りが気になって仕方ない。  「……周りに聞こえんぞ」  大橋は周りを見回して「うーん」と言った。  「うーんじゃないよ。売れ始まったタレントだって自覚して」  悲しげに大橋が聞いてきた。  「私のこと好き?」  俺は小声で言う。  「好きに決まってる」  大橋が安心したように頷いた。  俺は大橋の表情に幸せを感じる。  ――ただ望むらくはいつか大橋に、上目遣いで見つめられながら歩いてみたい。  「俺、もっと頑張るから。依花(ヨリカ)が恥ずかしくない彼氏になる。ちゃんとカッコいい彼氏になるから」    大橋が困ったように言う。  「もう、そのままで充分、長嶺健太は世界一カッコいい」  俺は笑う。  「じゃ、それで」  「なにそれ」  ――俺はカッコよくなんかないんだよと思う。    「依花(ヨリカ)が、俺をカッコいい思うなら、それでという事で」  大橋が笑う。  「長嶺くんは、やっぱり少し変わってる」  俺は真顔で言う。  「良いんだよ。依花(ヨリカ)がそう思うなら、それで良い」  ――依花(ヨリカ)の言葉が俺をカッコよくするんだから――  長嶺健太は世界一カッコいい ---Fin---  
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