長嶺健太は世界一カッコいい

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 夏休み開けた頃だった。  大橋が俺を誘った。  「映画いかない?」  「俺と大橋で?」  「嫌なの?」  「大橋と歩くと、俺、大橋に連れられいる子供みたいだろう?」  大橋の顔が一気に暗くなる。    暗い顔の大橋を見て、俺は焦る。  「あ、そんな。落ち込むな。大橋、行く。映画行くぞ!」  「本当?」  「ああ、本当だ!」  大橋が笑った。  「嬉しい!」  俺と大橋は、映画へ行くことになった。  大きなショッピングモールの3階の映画館で待ち合わせして、俺たちはチケットを受け取り、ポップコーン1箱と、ジュース2つ買った。そして席につく。俺と大橋の間にはポップコーン1が置かれた。  甘いキャラメル味だった。甘い匂いが俺の鼻をくすぐった。大橋が美味そうにポップコーンを食べる。  「美味いか?」  「うん」  「いっぱい食べろよ」  「うん」  美味しそうにポップコーンを食べる大橋が可愛く見えた。ポップコーンを大橋に全部食べさせて上げたいと俺は思い、ポップコーンに手を伸ばさなかった。  映画が始まり、大橋が言う。  「長嶺くんもポップコーン食べて」  「ああ……。うん。俺はいいよ」  「私一人じゃ食べ切れないよぉ」  それで、俺がポップコーンに手を伸ばし。ポップコーンを口に入れ。少ししてからまた手を伸ばした。    すると大橋の指に、俺の指がぶつかってしまった。  「あ、ごめん。映画見ていて、容器を見てなかった」  俺が手を引っ込めようとしたら、大橋が俺の手を握った。  大橋が小さく笑う。  「うふふ」  大橋の笑顔を見て、俺は「ああ……」と息を漏らした。  俺はポップコーンを退けて、大橋の席に身を寄せた。大橋も俺の身体に身を寄せた。  俺と大橋は手を握ったまま寄り添い合う。  「私ね。長嶺くんが背中押してくれたお陰で、この映画にちょびっとだけ出てるんだ」  「え? 嘘? 知らなかったよ」  「私ね。恥ずかしくて言えなかったけど。あの後、電話して、芸能事務所に入って。仕事だんだん増えてね。この映画もでられたんだ」    俺は大橋の横顔を見つめる。  ――大橋が眩しかった。  俺は大橋に置いていかれてるな、と思った。  大橋がスクリーンを指差す。  「もうすぐうち出るよ。ほんの2言しかセリフないの。見逃さないで」  俺は頷き、スクリーンをじっと見つめた。  見つめすぎて、涙が出た。  2つのセリフしかない大橋は、それも綺麗で目立っていた。  ――大橋は輝いている。  
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