4人が本棚に入れています
本棚に追加
それから大橋は売れ始めて、学校に来る日が減っていった。
俺も受験勉強で忙しかったし、大橋はロケや撮影で大変だったらしい。
なかなか話もできないまま、2月になっていた。
2月も終わる頃、数時間だったけど、二人で会えた。大橋がパンケーキを食べたいと言って、俺を誘ってくれたのだ。パンケーキを食べ終えて、俺は大橋を駅まで送っていく。今日は駅で大橋とお別れだ。大橋はこれからまた仕事らしい。
俺たちは繁華街を歩いていた。
俺が大橋に聞いた。
「大橋は進路どうするの?」
「芸能事務所が決めた、芸能人がいっぱいる学校に行く」
「長嶺くんは?」
「受かれば北高に行く。北高ダメなら、私立で受かっている明慶学院に行くよ」
「頭いいんだね。北高や明慶はメチャ偏差値高いじゃん」
「俺は頭なんかよくないよ。大橋のために勉強を頑張ったんだ。本当はもうワンランク下の高校でいいと思ってた」
「え? 私のためって……。どう言う意味なの?」
俺は本心を伝える。
「大橋は、どんどん芸能界で売れていって。どんどん綺麗になって。俺から遠い人になっていくみたいで。だから俺も頑張ろうと思ったんだ。大橋が恥ずかしくない人になりたくて」
「私は、売れても私だよ」
「そうだけどさ……」
「ところで、少し背が伸びた?」
俺は大橋を見上げる。
「うん、少しだけど伸びた。実は、牛乳飲んで、ランニングしてる。毎日寝る前にはジャンプもしてる」
「それで、背が伸びるんだ?」
「気休めかもしれないけど、出来ることはする。俺さ、春の身体測定から5センチ伸びたんだ」
「そっかぁ。頑張ったね」
俺は大橋の励ましが嬉しい。
「俺、もっと頑張るよ。背とか、成績とか」
「あんまり追い込まないでね」
「いやダメだ。大橋に少しでも追いつけるように頑張るよ」
大橋が俺の顔をまじまじと見つめてきた。
「長嶺くんはカッコいいよ」
「え?」
――俺は自分を、カッコ良いわけがないと思う。
大橋が恥じらいながら言う。
「長嶺くんは、カッコいいよ。もうぅ――! 私は長嶺くんが大好き」
「うぇ? いきなり言う? 俺も好きだ」
俺は感極まって思わず、大橋の手を握った。
大橋が俺に握られた手を見て笑う。
「うふふ」
俺も笑う。
「ふふふ」
大橋が真顔になった。
「長嶺くん。なんか言う事ないの? 両思いだったんだよ」
俺はいつになく真剣な顔をの大橋をみて、生唾を飲み込んだ。
少しの静寂。それから俺は尋ねた。
「こんな場所で言うの? 道の真ん中だよ」
「言って欲しい。今日はもう時間ないし。これからもいつ会えるか……。私たち、もうすぐ卒業だよ。そしたらもっと会えなくなる」
俺は意を決していう。
「俺の彼女になってくれる?」
「うん。……なる」
「やったァ」
俺が小さく、空いた手でガッツポーズをとる。
すると大橋が、俺の言葉をアホみたいに繰り返した。
「彼女になってくれる? いいよぉ。彼女になってくれる? いいよぉ」
俺は恥ずかしくなって、真っ赤になる。
「……やめてェ」
「やったァ! だってェ。ねぇ。依花って呼んでみてェ」
大橋がはしゃぐ。
「もう、はしゃぐのやめて。恥ずかしいから。街中だよ」
大橋がシュンとした顔になる。
俺は大橋の表情をみて可哀想になる。
「はしゃいで良いよ。依花」
大橋が満面の笑みで俺に笑いかけた。
最初のコメントを投稿しよう!