長嶺健太は世界一カッコいい

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 それから大橋は売れ始めて、学校に来る日が減っていった。  俺も受験勉強で忙しかったし、大橋はロケや撮影で大変だったらしい。  なかなか話もできないまま、2月になっていた。  2月も終わる頃、数時間だったけど、二人で会えた。大橋がパンケーキを食べたいと言って、俺を誘ってくれたのだ。パンケーキを食べ終えて、俺は大橋を駅まで送っていく。今日は駅で大橋とお別れだ。大橋はこれからまた仕事らしい。  俺たちは繁華街を歩いていた。  俺が大橋に聞いた。  「大橋は進路どうするの?」  「芸能事務所が決めた、芸能人がいっぱいる学校に行く」  「長嶺くんは?」  「受かれば北高に行く。北高ダメなら、私立で受かっている明慶学院に行くよ」  「頭いいんだね。北高や明慶はメチャ偏差値高いじゃん」  「俺は頭なんかよくないよ。大橋のために勉強を頑張ったんだ。本当はもうワンランク下の高校でいいと思ってた」  「え? 私のためって……。どう言う意味なの?」  俺は本心を伝える。  「大橋は、どんどん芸能界で売れていって。どんどん綺麗になって。俺から遠い人になっていくみたいで。だから俺も頑張ろうと思ったんだ。大橋が恥ずかしくない人になりたくて」  「私は、売れても私だよ」  「そうだけどさ……」  「ところで、少し背が伸びた?」  俺は大橋を見上げる。  「うん、少しだけど伸びた。実は、牛乳飲んで、ランニングしてる。毎日寝る前にはジャンプもしてる」  「それで、背が伸びるんだ?」  「気休めかもしれないけど、出来ることはする。俺さ、春の身体測定から5センチ伸びたんだ」    「そっかぁ。頑張ったね」  俺は大橋の励ましが嬉しい。  「俺、もっと頑張るよ。背とか、成績とか」  「あんまり追い込まないでね」  「いやダメだ。大橋に少しでも追いつけるように頑張るよ」    大橋が俺の顔をまじまじと見つめてきた。  「長嶺くんはカッコいいよ」  「え?」  ――俺は自分を、カッコ良いわけがないと思う。    大橋が恥じらいながら言う。  「長嶺くんは、カッコいいよ。もうぅ――! 私は長嶺くんが大好き」  「うぇ? いきなり言う? 俺も好きだ」  俺は感極まって思わず、大橋の手を握った。  大橋が俺に握られた手を見て笑う。  「うふふ」  俺も笑う。  「ふふふ」    大橋が真顔になった。  「長嶺くん。なんか言う事ないの? 両思いだったんだよ」  俺はいつになく真剣な顔をの大橋をみて、生唾を飲み込んだ。  少しの静寂。それから俺は尋ねた。  「こんな場所で言うの? 道の真ん中だよ」  「言って欲しい。今日はもう時間ないし。これからもいつ会えるか……。私たち、もうすぐ卒業だよ。そしたらもっと会えなくなる」    俺は意を決していう。  「俺の彼女になってくれる?」  「うん。……なる」  「やったァ」  俺が小さく、空いた手でガッツポーズをとる。  すると大橋が、俺の言葉をアホみたいに繰り返した。  「彼女になってくれる? いいよぉ。彼女になってくれる? いいよぉ」  俺は恥ずかしくなって、真っ赤になる。  「……やめてェ」  「やったァ! だってェ。ねぇ。依花(ヨリカ)って呼んでみてェ」  大橋がはしゃぐ。  「もう、はしゃぐのやめて。恥ずかしいから。街中だよ」  大橋がシュンとした顔になる。  俺は大橋の表情をみて可哀想になる。  「はしゃいで良いよ。依花(ヨリカ)」  大橋が満面の笑みで俺に笑いかけた。  
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加