4人が本棚に入れています
本棚に追加
――ブブブ。
携帯電話がバイブした。
それで、俺は昔の話を思い出すのをやめた。
教室の女子は、大橋の話題から、もう違う話に移っていた。
メイクの話をしているらしい。
画面を見て俺は焦る。
俺は急いで教室を出た。
小走りに校門へ向かった。
校門に背の高い女子が佇んでいた。
その女子を横目で見ながら、帰宅していく生徒が囁いていた。
「あれ、大橋ヨリカじゃね?」
「まさぁ、こんなところにいないよぉ」
俺は背に高い女子の傍に駆け寄る。
「依花。急に俺の学校になんか来んなよ。目立つだろう?」
大橋が言う。
「急に、撮休になって」
大橋が俺の腕に手を絡める。
辺りにいた生徒がざわめく。
「いいのか? 俺なんかと付き合っているのバレて」
「私はアイドルキャラじゃないし。ファンは女子ばっかだから、男の人とお付き合いしていても問題ないよ。インタビュー受けてる時も、ちゃんと言っているし」
「そう言う意味じゃ……」
「え? どう言う意味だったの?」
――”俺なんか彼氏じゃイメージダウンになるんじゃないか”という意味だと、喉まで出かかって言うのをやめた。
人だかりが出来始めていた。
俺は気にして言う。
「行こう」
俺たちは大橋の手を解いて歩き出す。
歩きながら俺が言う。
「それと、インタビューであれ言うのやめて」
「あれって何?」
「私の彼氏は、世界一カッコいいんですって言うの止めて欲しい」
「だってぇ。私には大橋くんは、世界一カッコいいんだもん」
「絶対違うだろう? 俺はカッコよくないだろう?」
大橋が、俺を見下ろしながら言った。
「だってぇ。長嶺くんが大好きだから」
俺は周りが気になって仕方ない。
「……周りに聞こえんぞ」
大橋は周りを見回して「うーん」と言った。
「うーんじゃないよ。売れ始まったタレントだって自覚して」
悲しげに大橋が聞いてきた。
「私のこと好き?」
俺は小声で言う。
「好きに決まってる」
大橋が安心したように頷いた。
俺は大橋の表情に幸せを感じる。
――ただ望むらくはいつか大橋に、上目遣いで見つめられながら歩いてみたい。
「俺、もっと頑張るから。依花が恥ずかしくない彼氏になる。ちゃんとカッコいい彼氏になるから」
大橋が困ったように言う。
「もう、そのままで充分、長嶺健太は世界一カッコいい」
俺は笑う。
「じゃ、それで」
「なにそれ」
――俺はカッコよくなんかないんだよと思う。
「依花が、俺をカッコいい思うなら、それでという事で」
大橋が笑う。
「長嶺くんは、やっぱり少し変わってる」
俺は真顔で言う。
「良いんだよ。依花がそう思うなら、それで良い」
――依花の言葉が俺をカッコよくするんだから――
長嶺健太は世界一カッコいい ---Fin---
最初のコメントを投稿しよう!