3人が本棚に入れています
本棚に追加
第一章
小学校低学年までは、楽しかった。
家族はみんな優しくて、時に厳しくて。
お父さんもお母さんも、たくさんの愛情を注いでくれたし。
しっかり者で成績もいいお姉ちゃんもいた。
驕ることはなく、勉強を教えてくれたり、一緒に遊んでくれたり。
そんな、極々平凡な家庭だった。
壊れ始めたのは、わたしが小学校を卒業する年。
「転勤が決まった」
父の、ひとこと。
長年過ごしたこの地を去る、その年から。
わたしの運命は狂いはじめた。
新しい環境に、なかなか馴染めない。
夏休みに新しい地に来たけれど。
わたしは、泣いてばかりいた。
だって、淋しかったから。
悲しかったから。
せめて、卒業までいたかった。
夏休み、友達はいない。
お姉ちゃんは、近くを散策しに出かけていた。
活発なお姉ちゃんらしい。
わたしは、部屋から出られなかった。
引っ越してきて、三日。
お母さんが、少し出かけようと言ってきた。
気が向かなかったけれど、わたしは頷く。
歩いて三分のところにある、果物屋さん。
たった三日なのに、外が久しぶりに感じる。
青く広がる空。
なんだか、少しせつない。
「ほら。スイカがあるよ!食べよう」
わたしの大好物。
お母さんの気持ちが、嬉しい。
「うん」
元気が、出てきた。
がんばって、この場所に馴染もう。
お母さん、ありがとう。
だけど。
現実は、辛くわたしに当たってきた。
新しい学校で、がんばる決意をしたのに。
新しくともだちを、作って楽しい毎日を過ごすつもりだったのに。
……………………わたしが、わるいの?
わたしが、わるかったの?
今でも、わからない。
でも、ただ一つ。
わたしの性格が、あの時から変わってしまったこと。
これだけは、たしかなこと。
それまでも、新しいことになかなか踏み出せなかったけれど。
普通に、生きてきた。
生きてきた、はず、だった。
何もかも、わたしのすべて、何もかも。
あの日、あの時に変わってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!