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晩秋でも上着は手放せなくて、隙間風にぶるぶる震えながら近藤くんの試合を見ていた。
結局、寒いからとスポドリは断られたけれど、温かい食べ物が欲しいと言われ、考えた末に量販店で手軽に買える肉まんを持っていったら、皆が奪い合いしながら食べてくれた。
試合中の近藤くんたちのぶんもどうにか残して、ひとつ勝ち上がった近藤くんたちが客席まで上がってきたのを見計らって持っていった。
「はい、肉まん」
「おお、マジか。サンキュ」
防具を取ってはむはむと食べてくれる近藤くんにほっとしながら、私は食べているのを眺めていたら、「なあ、佐久馬」と声をかけてくれる。
さっさと食べ終えた近藤くんをきょとんと見上げていたら「あー……」と声を上げる。
「ちょっと散歩しね?」
「うん」
剣道部の皆が「夫婦行ってらっしゃい」と茶化すのを「やめてください!」といつものように噛みつくのでくすくす笑い、ふたりで試合会場の外に散歩に出る。
近藤くんがこちらをちらちら見てくるのに、私はキョトンとした。
「なに?」
「あー……うん。ちょっと前まで、お前やけに落ち込んでたみたいだったけど、試合前で放っておいて心配だったんだ。もう、大丈夫そうか?」
「私、そんなに心配かけてた? ごめん……」
「なんでもないんだったらいいんだよ。マジで。自己中毒起こす前にちゃんと俺に言え、なっ?」
そう心配そうな顔で頭をポンポンと撫でられるけれど、本当に心当たりがなくって、私はいったいなにをそこまで近藤君を心配させてしまったのかがわからず、ただ目を白黒とさせる。
私たちは同じクラスじゃないし、今は園芸部も活動休止状態だから園芸場で会うこともできない。寂しくなかったと言えば嘘じゃないけど。でもなんで?
私がますますわからない顔をしてる中、近藤くんが頬をポリポリと「あー……」と引っ掻く。
「うん。元気ならそれでいいんだ」
「……私は、今本当に幸せだよ?」
好きな人がいて、好きな人と両思いで、別にドラマティックじゃなくっても、その日一日幸せを噛みしめている。
それ以上の幸せはないと、何故か確信している。
近藤くんは少しキョトンとしたあと、どっと顔を火照らせた。
「……あったり前だろ、バッカ……!」
「お、こらないでってば!」
「怒ってねえよ! あー、もう!」
そのまま、少しだけ抱き着かれた。胴着臭くって、思わず目を白黒とさせたけれど、近藤くんのひと言に、私は少しだけ固まった。
「……なんか、俺ばっか佐久馬のこと考えてるみたいで、不公平だと思ったのに……」
「……そんなこと、ないよ」
誰にも心を操られていない。誰にも思うようにされていない。
それが幸せなんだと、何故かそう思った。
私は、この恋を大切にしたいと、そう心の奥から思うのだ。
<了>
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