二周目:夏。応援に行ってもいいですか?

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 私がいそいそと近藤くんに言われるがまま鞄を籠に入れたら、そのままスタスタと歩きはじめてしまった。  近藤くんと私はコンパスの差があるせいで、私は必死で着いていかないと追いつけない。それに近藤くんは少しだけ意外そうな顔をしてこちらに振り返った。 「……もしかして、お前足が遅いの?」  私の足が遅いんじゃなくって、私と近藤くんだと足の長さが違うの!  そう声をかけたかったけれど、萎縮してしまって上手く抗議の声が出なく、私は「ごめんなさい」と謝っていった。  近藤くんは少しだけ自転車にブレーキをかけて、こちらのほうに振り返る。 「別に、言ってくれりゃ遅く歩くのに」 「そんな、鞄入れてくれてるのに」 「別にそんなこと感謝するとこじゃなくね?」  この人、優しいのか優しくないのか全然わからないなあ。  私は少しだけ歩みが遅くなった近藤くんの隣を、テクテクと歩く。  まだ空は高い。やっぱり、今日みたいな日は私ひとりで帰っても大丈夫だったんじゃないかなとぼんやりと思う。 「なあ、佐久馬。お前日曜日暇?」 「えっと」  頭にぱっと出たのは、スーパーの特売日だった。その日はお母さんも休みだから、車を出してもらって大量に調味料とか日持ちする食料とか買っておくのだ。  なんて。言ってもわからないよねえ。私は無難に「買い物」と言うと、近藤くんは「そっかあ」とだけ言った。  あれ。私は目を瞬かせながら、近藤くんを見た。 「なにかあったの?」 「……なんもねえ」 「あの、私。また怒らせるようなこと」 「あのなあ、たしかにお前、見ててすっげえイライラすることあるけど」  また怒気を孕んだ声を出すのに、私は肩を強ばらせる。それに気付いたのか、近藤くんは少しだけ気まずそうにふいっと顔を逸らした。 「……いや、忙しいんだったら別にいい」 「ええ? うん」  そのまま、ふたりとも特に会話が弾むこともなく、うちのマンションまで帰ってしまった。私は鞄を取り、「ありがとう、送ってくれて」とお礼を言ったら、近藤くんはぶっきらぼうに「おう」とだけ言って、そのまま自転車に跨がって帰って行ってしまった。  ……元来た方向へ。  私はそれを、ポカンとして見ていた。  もしかしなくっても、家、逆方向だったんじゃ。申し訳ない気分とむずむずした気分が迫り上がってくるけれど、同時に胃液が上がってきたのを、どうにか堰き止めた。  ……近藤くんは、口が悪いし態度も悪いけど、多分いい人なんだ。  だから、私みたいなよくわからない人間に優しくしなくってもいいのに。そう思いながら、彼を背にして、マンションへと入っていった。
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