二周目:秋。……出会ってしまいました。

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 私は恵美ちゃんと一緒に、本当に珍しくファミレスに入った。普段は忙しくって、なかなかファミレスで時間を潰す暇すらないからだ。  ドリンクバーで適当にジュースとアイスティーをブレンドしてフルーツティーをつくって、席に戻る。 「どうしたの、恵美ちゃん。最近なんかおかしかったけど……彼氏さんと上手くいってたはずじゃない」 「……それ、聞いたの? 奈都子から?」  普段はばっさりとしているのに、珍しく恵美ちゃんが弱っているのに、私も言葉が詰まる。 「……ごめん」 「別にいいんだけどさ。でもね……うん」  恵美ちゃんはズズズとフルーツティーをすすりながら続ける。 「夏休み中は上手くいってたんだ。普通にデートしてたしね」  やっぱり夏休み中はずっと一緒にいたんだなと納得していたら「でもね……」と恵美ちゃんは言葉を詰まらせる。  私はフルーツティーをちびちび飲みながら続きを待っていたら、恵美ちゃんはぽろっと涙をこぼした。 「……夏休み終わってから、急に彼氏がよそよそしくなって、少しずつアプリの返信が遅れてくるようになったの。本当に心当たりがなくって……」 「それだけだったらわからないよね。彼氏さんと会ってお話したの?」 「……二学期に入ってから、急に彼氏学校の都合で忙しくなって、会いに行こうとしても止めるの。全然理由がわからないし、電話は繋がらないし……これでアプリまでブロックされたら、あたしどうしようって……」  いくらなんでも、これはおかしい。  私の知っている彼氏さんは、律儀で誠実な人だし、恵美ちゃんの真面目な性格を知っているから、下手に誤解されるようなことはしないはずだ。  ただ。ひとつだけ心当たりがあり、私はずっと胸の中で警鐘が鳴っていたことを口にしてみた。 「……あのさ、天文部、今人がいないって聞いたけど」 「あれ? あんた、うちの部長が人足りないって言いに来たの知ってたっけ?」 「……前に他のクラスに『天文部人が足りない』って大声で言いに行っている先輩がいたから、そうなのかなと」 「ああ」  恵美ちゃんはあっさり納得してくれた。  今の瀬利先輩と直接対峙したことはないけれど、やっぱり今回も瀬利先輩が部員が減っているところ、幽霊部員を呼び戻しに行くことはしていたみたい。  私が頭の中で考えていることはさておいて、恵美ちゃんは頷く。 「今はずっと篠山に押し付けられているみたいだし、あたしも部が潰れるの自体は困るから、顔を出すようにしてるよ。でもどうして?」 「……もしかしなくっても、しのや……さっきの男子と一緒にいるところを見られたっていうのはない? ほら、さっきの男子、ちょっと距離感が変というか、近過ぎというか……」  ……私自身、自分が天文部にいたときは全然気付かなかったけれど。  あの距離感はいくらなんでも、友達同士の距離感だなんて思わない。友達以上恋人未満。皆が皆惚れた腫れたにうつつを抜かしているわけじゃないだろうけど、距離感おかしいと思っても仕方ない感じがした。  恵美ちゃんは涙を拭きながら、だんだん顔を青褪めさせていく。 「……まさか、見られた? 本当に、あいつのことは同じ部活の奴としか思ってなかったんだけど」 「残念だけど、そう思っても仕方ないと思うよ」 「あたしのせいじゃん! 彼氏、まだアプリブロックしてないよね!?」  恵美ちゃんが震えている。通話が繋がらないと言っていたから、もしかするとそうなのかもしれない。私は黙って自分のスマホの電話を確認すると、それを差し出した。 「使って」 「え、でも由良……」 「彼氏さんとちゃんと仲直りしようよ。もし電話代高く付くようだったら、あとでそのぶんは請求するから」 「うん……ありがとね」  恵美ちゃんは私のスマホを受け取ると、震える手付きで電話番号をタップしはじめた。  私は慌てて彼氏さんに謝ろうとしている恵美ちゃんを見ながら、ほっとした。  でも……。変な胸騒ぎは治まらない。  私の知っている篠山くんは、たしかに周りに誤解されやすいタイプだ。特に女子。本当に弱っているところを優しくされてしまったら、ころっといってしまうのは経験則だけれど、篠山くんのあのどうしようもない癖は、男子には発揮しなかったはずだ。  だから篠山くん狙いの女子のことを好きな男子と揉めたことは、一度だってなかったはずなんだ。でも今回は、もうちょっとで恵美ちゃんと彼氏さんが破局するところだった。ううん、彼氏さんがそう誤解しようとしていた。  まさかと思うけれど……。  私は今まで遭った不可解なことが頭を掠める。  近藤くんと一緒に買い出しに行ったときに、天文部がゲームセンターで遊んでいたのは偶然? 夏休み中に天文部のオブジェが落ちていたのは? それに今回の恵美ちゃんの彼氏さんの件……。  まるで私を天文部に誘い込むようで、気持ち悪い。でもそんなことする理由ってなに? だってそれだったらまるで。  篠山くんが、前のときの記憶を持っているようなものじゃない。  私の胸騒ぎはともかく、恵美ちゃんの通話は無事彼氏さんに繋がったみたい。恵美ちゃんが泣きながら必死で謝罪していたら、向こうから聞き覚えのある声がやんわりと彼女を慰めている声が届き、私もほっとした。  もし、私のせいで恵美ちゃんが彼氏さんと別れていたら、きっと自分を許せなかった。  でも。篠山くんが前のときのことを覚えているかもしれないって可能性が、消えた訳じゃない。どうしよう。  私は彼のことを考えると、ひどく気分が重くなる。  もう前のときの私とはずいぶんと違ってしまっている。  今の私は篠山くんのことを好きじゃないし、前のときたしかに好きだった彼との思い出を、これ以上汚さないで欲しい。  でもそれを篠山くんに言ってもいいの。だってこれがただの私の思い込みや勘違いだったら、どうしようもないじゃない。  このことを誰に、どうやって相談しよう。私は頭が痛くなるのを感じながら、泣いた顔が笑顔に戻っていく恵美ちゃんを眺めていた。
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