二周目:春。剣道部員に出会いました

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二周目:春。剣道部員に出会いました

 それから私は、園芸部に入った。  先輩たちはほとんど……どころか全く来ない上に、顧問まで来ないという体たらくで、私はジャージ姿で誰も来ない園芸場で立ち尽くしていた。  誰も来ないんだったら、もう帰ってもいいのかな。そもそも部長すら誰だかわからない部だからなあ、ここ。私は途方に暮れて視線をさまよわせていたところで、誰かが園芸場に入ってきたのが見えた。 「君かね、新しい園芸部員は」  こちらに声をかけてきたのは、有名メーカーのジャージを着た先生だった。いかつい雰囲気で、年は多分私のお父さんと同い年くらいだろう。格好からして、体育教師らしい。 「あ、はい。Dクラスの佐久馬です」 「そうかそうか、なら畑の雑草を抜こうか。雑草はコンポストに入れるから、バケツを持って行きなさい」 「はい……あのう、失礼ですが、園芸部の副顧問……でしょうか?」 「いや? 剣道部の顧問だが」  何故。私はそのとき、どんな顔でこの剣道部の顧問の先生を見たのかはわからないけど、多分引きつった顔をしていたんだと思う。  私の顔を余所に、先生はずいぶんと慣れた手付きで雑草を引っこ抜いてはバケツに放り込んでいた。 「この辺りは先生が世話してるから、あんまり荒らしたりしないように。野菜の収穫など、部活で必要な場合は、ちゃんと先生に言ってからするように」 「え? 顧問にですか? 先生にですか?」 「ああ、そういえば名乗ってなかったか。鬼瓦だ。畑のことはなんでも聞くので」  私はその物言いに、ツッコミどころしかないにもかかわらず、なにも聞くことができなかった。  どうして剣道部の顧問が園芸場を牛耳っているんだろう。どうして剣道部員は日がな園芸場にこもっている顧問に文句を言わないんだろうか。そもそも園芸部の顧問よりも園芸部活動に熱心って、剣道部の顧問辞めて園芸部の副顧問に捻り込めなかったんだろうか。  言いたいことはたくさんあれども、いかつい鬼瓦先生が真面目に真面目に雑草を抜いているのを見たら聞くこともできず、ただ夕方まで雑草を抜いて、コンポストに雑草を放り込んでから帰ったのだ。  これが、園芸部の活動一日目の記憶だ。
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