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「うはははははははは……!!」
「わ、笑わないで! 私も、本気でわかってないんだから!!」
「あはははは……いや、ごめんごめん……でもいかつい先生とただ雑草を抜いて終わる部活って、結構斬新というかなんというか……」
昼休み。
私がパンを食べながら恵美ちゃんに園芸部の話をしたら、腹を抱えて笑われてしまい、思わずぶすくれると、恵美ちゃんは目尻にいっぱい溜めた涙を拭って手を合わせて謝ってきた。
「ごめんごめん。でも謎過ぎるね、それ」
「うん。本当に意味がわかんなかった。でも人がいなさ過ぎて返って楽なんだけどね。誰に対しても気を遣わなくっていいし」
「ふうん……でもそれだったら天文部でもよかったんじゃないの?」
彼氏とのデート最優先で、結局ひとりで天文部に入部し、幽霊部員と化した恵美ちゃんに指摘され、私は内心ギクリとする。
まさか言えないもんな、天文部で顔を合わせたくない相手がいるだなんて。私はできる限り笑顔をつくった。
「うーん、でも今更園芸部辞めるっていうのも愛想がないし。あ、さつまいも育ててるから、秋になったら焼き芋するんだって鬼瓦先生が言ってた」
「へえ……他部の人間でもよかったら、ごちそうしてもらいたいなあ」
「それは先生に聞かないとわからないけど」
適当に誤魔化して、それに納得してくれた恵美ちゃんに心底ほっとしながら、私は今日も園芸部へと出かけていった。
花に囲まれていて、教師とふたりっきりで部活しているというと、なんだか怪しい話になるけれど、全くそんなことはなくて。
園芸場はたしかに花で覆われているけれど、それ以上に多いのは野菜畑だ。いったいこれがなんの野菜なのかわからないつた植物から、これが本当に果物なのか信じられないくらい鮮やかな花まで、それらの世話を行っている。
鬼瓦先生は既に既婚者な上に、顔がいかつく、とてもじゃないけれど少女漫画的な展開なんて起こりようもない。
……前の周が、てんこ盛り過ぎたんだろうな。私はそう納得している。
顔がいい訳でもないのにモテまくる男子に告白して、中途半端な返事をもらった挙げ句に自爆して死んじゃうなんて未来に、辿り着きたい訳じゃない。
別に彼氏なんかできなくってもいい。好きな人ができなくっても困らない。ただ、平穏に高校生活を終えたいだけなんだから。
そんなことを口にしたら、彼氏持ちの恵美ちゃんに説教されそうだから、絶対に声に出して言わないけれど。
私はのんびりと天気を見た。
今日も五月晴れ。いい園芸日和になりそうだ。
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