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一周目:夏 失恋しました。
虫のジリジリと鳴く音が、いやに大きく聞こえる。合宿場裏は、昼間に見たら見晴らしがよくって綺麗だったのに、今は灯りひとつ落ちてなくって闇そのものだ。
それでも、私は今は自分の心臓の音を落ち着けようと、深く息を吸い込むので精一杯だった。
「佐久馬、話って?」
目の前で体操服の男子がきょとんとした顔でこちらを見ている。
目つきは悪いし、体は少しひょろひょろしているけれど、私はその悪い目つきで人のいろんなものを見ていることを知っている。
彼はいろんなことに気を回せる人で、口が悪いけど誰よりも優しいことを知っている。笑った顔が年不相応に幼いことを知っている。野外炊飯のとき、びっくりするほどおいしいカレーをつくった手先の器用さを知っている。
だからこそ、今日言おうと思っていた。
「……わた、し、篠山くんのことが、好き、です……」
人生初の告白なのに、私はしどろもどろになって、少女漫画のようにきっぱりとした告白はできず、ぱさぱさの声でしおしおの告白をすることしかできなかった。
途端に、篠山くんは「ぷはっ!」と笑い出した。
ゲラゲラゲラゲラと笑い出す彼に、私もまたきょとんとする。
「あ、あの……私、駄目……だった……?」
「いや、佐久馬。お前やっと言ったな!」
「ええ……?」
「ずっとこっちを見てそわそわそわそわしてたから、いつ言うんだろう。待ってないと駄目なのかって思ってた!」
「あの……?」
私の好意なんて、筒抜けだったんだ……。
篠山くんがあまりにも腹抱えて笑うものだから、私はちらちらと合宿場のほうを気にした。誰か気付いて、こちらの話を立ち聞きしたりしないかなと。もし立ち聞きされてからかわれでもしたら……死んでしまうかもしれない。
でも。篠山くんは返事をしてくれる訳でもなく、ひとしきり笑ったあと、私の頭をぽんと撫でてきた。
普通に考えたらセクハラだし、多分彼以外に撫でられたら嫌な顔しかしないと思う。でも彼はいつも女子との距離感はおかしくって、こちらが照れないように必死で逃げても逃げてもこの距離感なのだから、もう諦めてしまった。
「よろしくな」
そう目を細めて言われたら、私は「う、うん……」と返事をしてしまった。
あの、これって返事は保留なんでしょうか。駄目だったんでしょうか。OKだったんでしょうか。満面の笑みで人のことを撫で続ける篠山くんに、私はいまいち聞きづらくて抗議をすることができなかった。
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