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広大な砂漠にある無数の国。そこをまとめている三大国の一つである、イルハム国。
ここら辺の国では最も裕福だと言われているこの国の最奥。そこには、煌びやかな宮殿が建っている。
そして、その宮殿の王座にて。一人の男性が、頬杖を突き呆れたような表情を浮かべていた。
「……で、母上。また、余計なことをおっしゃりに来たのか」
光の一筋も通しそうにないほどの、漆黒色の髪の毛。その目の色はアメジストのように美しい紫色。が、現在は不機嫌そうに細められており、迫力がすごい。
それでもなお、その顔立ちは恐ろしいほどに整っていた。
この国で最も権力を持ち、その有能さから『絶対的な王』と呼ばれている男。
それがこの男、メルレイン・イルハム。年齢は二十六。つい三年前に先王の崩御に伴い、王位についた若き王だ。
「余計なこととはなんですか。……お前には、この国の未来がかかっているのですよ」
対する目の前の女性は、フェイスベール越しにメルレインを見つめた。
いや、見つめているなんて生温かいものではない。半ば睨みつけているようなものだ。それに気が付いても、メルレインは内心でため息をつくだけ。
「だったとしても、だ。……そもそも、王室には俺以外にもたくさんの人間がいる。有能なほかの誰かが、跡を継げばいいだろう」
それはメルレインの本当の気持ちだ。
わざわざ跡を継ぐのが自分の直系の子である意味などないだろうに。
なのに、目の前のこの母親は。次期王はメルレインの子供――つまり、自身の孫でなければならないという。
全く、身勝手なものだ。
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