第1章

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 実際、最近近辺国から援助が欲しいという申し出を山のように受けている。でも、メルレインはそれを話しだけ聞いて突っぱねて来た。それには、明確な理由がある。 (一つの国だけに援助をすれば、角が立つ。かといって、ここら近辺の国すべてに援助をすることは、難しい。ならば、平等に全部の国の援助を突っぱねるのが正解だ)  メルレインは合理的な考えを持っている。  無駄なことは大嫌いだ。そして、なによりも。争いが嫌いだ。  ならば、自分が憎まれる存在になったとしても、こうするのが正しい。 (国を無駄に衰退させることは出来やしない。……これが、正しい方法だ)  自分自身、薄情だと思うところもある。が、他国よりも自国だ。他国の民よりも、自国の民たちだ。  それくらい、王として当然の考えだと。メルレインは自負している。 「というわけで、母上。……今日のところは、お引き取り願いたい」  口元にだけ笑みを浮かべて、メルレインはそう告げる。そうすれば、母は「くっ……」とだけ言葉を残して、一礼をした。 「では、本日は一旦引き下がりましょう。……ですが、母はまだあきらめてはおりませんからね。せっかく、あなたのために後宮まで用意したのですから」 「有難迷惑ですね」  母の言葉を一蹴し、メルレインは「はぁ」と露骨にため息をついた。 「全く、後宮など必要ないだろうに」  確かに歴代の王は、後宮――いわばハレム――を好んでいたかもしれない。でも、メルレインにはそんなもの必要ない。  そもそも、女性が苦手だ。自身の最も側にいた女性が、あの母なのだ。苦手になるなというほうが、絶対的に無理だった。 「まぁ、いい。……姫との話を、さっさと済ませるぞ」 「承知いたしました」  立ち上がったメルレインに、近くにいた若い大臣が深々と頭を下げる。 「本日の会談のお相手は、ナウファル国の第七皇女であられるアルティングル殿下でございます」 「そうか」  援助を頼みに来るのに、相手は第七皇女なのか。 (訳あり、のようだな)  心の中だけでそう呟いて、メルレインは歩き始めた。
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