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◇
「わぁ、なんてすごいのかしら……!」
イルハム国の王都の入り口にて。
一人の女性が遠くから宮殿を見上げ、感嘆の声を漏らした。
「それに、人もとても活き活きと活動しているわ。……本当、うちとは大違い」
小さくそう続ける。その後、ポケットの中に入れていた時計を見つめた。
(約束の時刻まで、あと一時間。……なんとか、無事辿り着いたわ)
ぎゅっと時計を握って、女性――アルティングルは、もう一度宮殿を見上げた。
真っ白な大理石をふんだんに使用した宮殿は、この国の豊かさを物語っているかのようだった。要所要所にあしらわれた色とりどりの魔法石も、これまた美しい。
ぼうっと宮殿を見上げていれば、近くから「お嬢ちゃん」と声をかけられる。
そちらに視線を向ければ、そこには年配の女性がいた。彼女はにっこりと笑って、アルティングルの顔を見つめてくる。
「お嬢ちゃんも、観光客かい?」
その問いかけに、一瞬だけ言葉に詰まる。……実際は、アルティングルは観光客ではない。
かといって、ここで正直に答えることもできなかった。ほんの少し視線を彷徨わせた後、誤魔化すように笑う。
「いえ、観光客っていうか、お仕事で用事があって、ここに来たの」
「あぁ、そうなのかい。王都は観光名所だからね。……もしかしたらって、思っちゃってさ」
ころころと可愛らしく笑った女性は、すぐにうんうんと頷いた。
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