第1章

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「ここら辺は本当にいいところだよ。……永住するなら、本当におススメ」 「まぁ」 「私は元々旅の者でね。……お嬢ちゃんみたいに、仕事の一環でこのイルハムの王都に来たんだ」  何処か懐かしむように、女性が宮殿に視線を向ける。暑苦しいほどの太陽の光を浴びて、きらきらと輝く宮殿はまさにお城だ。  そう思いつつ、アルティングルは女性の言葉に耳を傾け続ける。 「この国は、本当にいいところさ。……他国にはいろいろと危なっかしいところもあるそうだけれどね。ここは、平和そのもの」 「……そう、なのですね」 「あぁ、それもこれも、全部王室のおかげさ。……しかも、現在の陛下は、それはそれは見た目麗しいお人なのさ」  ……それは、アルティングルが最も手に入れたかった情報だ。  そのため、ぐいっと女性に顔を近づける。 「よかったら、王室のこと。教えていただけませんか?」  いきなり強い興味を示したアルティングルだが、女性は驚くことはない。ただ「まぁまぁ」と宥めるような声をかけてくるだけだ。 「若い女の子は本当に王室のことが好きだねぇ。……まぁ、あれだけ美しい男性なんて、誰もが魅了されて当然か」  女性がそう言って肩をすくめる。その姿を見つめて、アルティングルは頭を必死に働かせる。 (今のところ、メルレイン陛下のことは、容姿がとてもお美しいこと。それしか、聞けていないものね……)  先触れを出し、返事はもらった。が、彼が一体どういう性格なのか。そこら辺を、アルティングルはあまり知らない。 「メルレイン陛下は、御年二十六のお人。三年前に先王の崩御に伴い、王位を継いだのさ」 「……それで?」 「性格は合理主義っていう言葉が合うのかねぇ。あとはまぁ、慈悲深くいらっしゃって、国のためならば命をも削ってくださるお方さ」  その言葉に、アルティングルは息を呑んだ。  ……国のために命を削る人。だったら、自分の言葉にも少しくらいは耳を傾けてくれるのではないか。  一抹の希望が、胸の中に芽生える。 「ただ、完璧なお人なんていないんだろうねぇ。メルレイン陛下にも、欠点があるんだよ」 「……欠点、ですか?」  ここまで民たちに慕われている王なのだ。欠点などないと、アルティングルは勝手に想像していた。
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