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だって、そうじゃないか。容姿端麗で、人望もある。そんな人に、欠点だなんて……。
「あぁ、メルレイン陛下は、極度の女性嫌いでね。後宮があるにも関わらず、そこにいる美しい女たちには見向きもしないのさ。だから、世継ぎの問題が心配されている」
「……そ、うですか」
「おや。もしかして、お嬢ちゃんも陛下に見初められるという夢を見ていたのかい?」
……正しくは、少し違うのだけれど。
そう言おうかと思ったものの、口から言葉が出ない。ただ、曖昧な笑みを浮かべ続けるだけだ。
「期待するだけ、無駄っていうものだよ。……陛下は、恋愛にうつつを抜かすようなお方じゃないっていうことさ」
女性が今度はけらけらと笑ってそう言うので、アルティングルも笑う。
……少し、頬が引きつったような感覚がするのは、気のせいじゃない。
「あ、じゃあ、私はこれにて失礼するよ。……お姉ちゃん、一応気を付けておきなよ」
「……え、えぇ、わかっています。いろいろと教えてくださって、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げて、アルティングルは女性と別れる。
風が吹いて、アルティングルのその長い金色の髪がさらりと揺れた。フェイスベールに隠れた桃色の目には、確かな不安が宿っている。
(……私、上手く会談できる……かしら)
そう思って、ごくりと息を呑んだ。
(けど、これは必要なことだもの。……民たちを守れるのは、私しかいない)
自分自身にそんな風に言い聞かせて、一旦深呼吸。砂埃が舞う空間を、アルティングルは前に進む。
「私は、ナウファルの皇女だもの。……民を守るのが、務めよ」
アルティングルは、小さくそう呟いた。
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