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7(終)
書きものをしていた手を止めて、目の間を揉み、ふうとため息をつく。傍らに置いておいたケースを取り、呪術師テルノはしげしげと眺めた。
テルノの掌中にあるのは、グノーシスに取り憑いた呪いの蛇の依代。男性を恐怖のどん底に陥れる、邪悪な指輪である。
しかしこの呪いの指輪は、転じて、縁結びの指輪となったのだ――。
トトとグノーシスが結ばれてから、もうひと月になる。
とはいえ劇的な変化はなにもなく、トトは愛想のない偏屈な少女のままだ。ただグノーシスと会うときは、普段着ている錆色のローブよりはもうちょっとマシな服を選んでいたり、ほんの少し唇に紅を差したりと、そんな微笑ましい振る舞いを見せるようになった。
グノーシスときたらトトの隣で、デレデレと鼻の下を伸ばしっぱなしである。モテモテの色男だった頃の見る影もないが、幸せなのだろう。
もっともそうなるだけの代償を、彼はきちんと払ったのだが。
――さて。
役目を終えた呪いの指輪は、どうするべきなのだろうか。
こんな物騒なものは、処分してしまうのが妥当だろう。しかしテルノは指輪ケースを、机の引き出しにそっとしまった。
「一応は、グルードの形見だものなあ」
男性の生殖器に取り憑き、性的欲求を満たすことを断固阻止する。――その呪いの蛇の指輪は、テルノの亡き妻であり優れた呪術師だったグルードが、精魂込めて作り上げたものだった。
今でこそ仙人のような落ち着きを見せるテルノは、こう見えて若かりし頃はバリバリのやんちゃ系だったのだ。女遊びを繰り返し、妻のグルードを苦しめてばかりいた。
しかしグルードは、ただ耐え忍ぶだけの女ではなかったのだ。
グルードは恨みと怒りを込めて、蛇の指輪を完成させた。同時に、今回グノーシスが飲んだのと同じ成分の、呪いに抗う薬を調合し、自ら服用した。
こうしてテルノは妻としか性交できぬようになり――グルードは実に呪術師らしく、夫を自分だけのものとしたのである。
「まあ、今となっては、なにもかも良き思い出だ」
女神のような慈愛に満ちた妻と、悪鬼の如く祟る妻。
亡きグルードの二つの顔を懐かしく思い出しながら、テルノは真っ白な顎髭を撫でた。
~ 終 ~
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