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プロローグ
イグナチオ・フォン・ロイド。
本当はもう少し(いやかなり?)長いのだが、それはロイド家が乗っ取ってきた家名の羅列であるし、今となってはロイドの血族は彼しか残っていない。もっと言えばロイドの財産に至ってはなにも残っていないのだから、そんな大層なものは名乗れば名乗るほど惨めになる。だから彼は名乗るときはイグナチオ・フォン・ロイドだけにとどめているし、その後すぐに『ナチョと呼んでくれ』と愛想よく笑うことにしている。おかげで今は大半の人間が彼をただのナチョ――はっきり言えばただのアル中と思っている次第だ。
だが――読者の皆さんには先んじて教えていたが――彼はただのナチョではない。彼はイグナチオ・フォン・ロイドだ。リティアルス国最盛期と言われるロイド王政……そう、『あの』ラファエロ・フォン・ロイドの末裔だ。
現に彼の髪は炎のように赤く、彼の瞳は朝には紫に、夜には緑に変わる。もし彼が素面で、もう少し(いやかなり?)鍛えて、それなりの格好して、とにかく素面でありさえすれば、間違いなく王族に見えたはずだ。
まあつまり、……今の彼はただのアル中にしか見えないということなのだけれども……。
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