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その3日前のこと。
鬱蒼とした森の奥にそびえる、影絵のような大屋敷だった。黒い鳥と陰る月を背景に、来る者を拒絶するような。
「いやだ、やっぱり帰るわ、私」
回れ右をし、背中を丸めて歩き出した鳴海を、夜音が手を差し出して制止した。腕っぷしだけが取り柄だが、一応女子である。
わからなくもない……手紙にあった地図通りに来て、よくわからないマジナイを唱え、それで現れた半透明の門をくぐったらこの景色。どう考えても、つまりは現実とズレた異世界。
「な、何だよ鳴海さん。天涯孤独は寂しいって言ってたじゃん。血縁だってんだろ? その手紙」
夜音自身、逃げ出したくなる自分を鼓舞するように声を張り上げた。鳴海のためだ。
鳴海は口を尖らせて手紙を握りしめた。
「……、私の父親がこの辺りの大地主で、死んだから財産分与とかで、婚外子の私にもお呼びがかかったってわけ。けど、こういう世界だなんて聞いてない。どうせ私なんか先の長くない年寄りだもん。怖そうなところはパス」
「あのねえ鳴海さん。今時50代なんか若手だよ。ヤバくなったらあたしが守ってやるから」
そう言いながらも、夜音の声も少し震えた。
夜音はオリンピック代表にも選ばれたことがあるほどの空手の使い手だ。が、アクションに自信はあれど、対異能となるとどこまで通じるか……単なる人間でしかない夜音たちに叶う相手なのか。
しかし、鳴海のためなら。
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