巖頭(いわお)館へようこそ

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 夜音は怪我で現役を引退後、道場を作って後進を育てたいとの夢を持っていた。が、最初で躓いた。共同経営者に金を持ち逃げされて生活にも困窮し行き倒れ寸前に。そんなときに出会った鳴海がアパートに置いてくれたのだ。  鳴海は不幸にも夫と死別していた。夜音はそんな鳴海の細かい雑用あれやこれやを引き受けるようになった。それでも恩はまだ、返しきれていないと思う。  だからこそ、幸せの可能性があるならば、背中を後押ししなければ。  その気持ちを汲んだのか、鳴海は口を尖らせたまま目だけ微笑んだ。 「……じゃ、行くだけ行ってみる。ありがと、夜音ちゃん」  夜音はうなずき、鳴海の手を引いてズカズカと歩を進めた。そして扉を開けた。妙に重い扉だった。  
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