巖頭(いわお)館へようこそ

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「ようこそ巖頭(いわお)館へ、一色鳴海さん」  二人を迎え入れたのは、コメディアンのような大きな金ぴか蝶ネクタイの中年男で、「鵙尾家長男の稲造です」と名乗った。 「あなたとは異母姉弟、ということになりますね」  鳴海が夜音の後ろに隠れてしまったので、夜音が応対する。 「どうも」 「ええと、あなたは?」 「山城夜音といいます。今日は鳴海さんの付き添い兼用心棒で来ました」  稲造の後ろからひょいと若い女が顔を出す。 「財産のおこぼれでも狙ってきたの? そもそもそっちのオバチャンだってさ、いきなり異母姉妹とか言われても知らない人だし怪しすぎる」  名乗りもしない若い女からいきなり無礼な物言い。さてぶん殴ろうかと構えたが、鳴海が顔を出してニッコリした。 「かわいい! あなたお名前は? 夜音ちゃんと同じくらいの年かしら?」  予想外の反応に毒気を抜かれたか、黙った女を「これは私の妹、つまりあなたにとっても妹の美月です。24歳で」と稲造が紹介した。 「ま、お気楽に。鳴海さんだけでなく、みな母親の違う兄弟なんでね」 「はあ……」 「鳴海さん、ドンピシャ。こいつ、あたしと同い年だ。けど物言いはガキンチョだね」  夜音が肩をすくめて言い放つと、美月はいきなり飾り棚の皿を取り、投げつけてきた。が、反射神経抜群の夜音は鳴海ごとヒラリと避け、皿は当然砕けた。 「……1ま~い……、いちま~い……1枚いいぃ……」  自分で砕いておいて立ち尽くす美月の輪郭が、もや~っとぼやけてぶれた。指さしながら何度もたった1枚を繰り返し数える髪の乱れた美月は、……もしやあの有名人の血を引いているのか? と夜音は思った。
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