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皿屋敷系の美月の皿回し(割れ目を貼り合わせた皿)。カネ怪獣系の稲造の札勘定(銀行員がよくやる一発芸)。カメレオン美花の虹色変化(さっきのドレスは見間違いじゃなかった)。合体レンジャー松也の乗り物変身(映画かアニメか!)。
ああ、みんな親へのリスペクトがあるのだな、と、夜音は感心しないでもなかった。
「鏡よ鏡よ、鏡さん――」
そこに急に後ろ姿で出現したのは、部屋に引きこもり気味だったはずの稲造の妻、葉子。
「あ、すみません、うちの妻の家系はですね――」
「――わかるわ、聞かんでも」
りんごの事件以来、世界で一番美しいのはその娘であって、継母は悪い奴。そんな烙印を押された母のもと、つまり例の姫の義理の妹にあたるらしい葉子は、自分の容姿に自信がないとか。「整形にはお金がかかるのよ。だから財産が必要なの」と言う。
カメレオン女優の夫は妻の周りに灰を散らしては花咲かせ、彼女の怪しい美貌を際立たせている。うん、あのおとぎ話のじいさんの系譜の人だろうな、とあたりがつく。
そして、一芸を披露するたび、ご先祖の「碑」から、やんややんやと拍手喝采が。その歓声の大きさが判断基準らしく、電光で目視できるセットが組まれている。……今のところ、最も偽物くさいカメレオン女優のグラフが一番伸びているけれど。
「さあ、いよいよあなたも」
一通り終えた皆の視線が鳴海に集まった。コーヒーを継ぎ足すことに集中していた鳴海は後ずさった。
「いやいやいや、いいです、私はそういうの、ご遠慮――」
「候補者として呼ばれた以上は何かしてもらいます。ウケなければそれでいいので」
「だって私なんか、芸なんか何もできないフツーのオバチャンだし」
「何かあるだろ。なければ歌でもいいじゃんか」
どうも後には引けないようだった。夜音は鳴海の辞退希望に加勢すべきだろうが、できれば鳴海に勝ち取ってほしいと思った。
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