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――翌朝。
目覚めという名の意識を取り戻した私は、飛び起きた。
私は焦っていた。メロディを知ってしまったのだから。そして何とも頭に残るものだった。これはもう、なにかの拍子に口に出てしまうのは時間の問題なように思えた。お母さんだって、知らず知らずに刷り込まれている。
私は慌ててお祖母ちゃんの部屋に飛び込んだ。
「お祖母ちゃん、助けて! 私、聴いちゃったの、昏睡のスイの歌を、聴いちゃったの!」
突然現れた孫が取り乱していることに、面食らった様子のお祖母ちゃんだったが、事情を察したのか、優しく微笑んでくれた。
「アカネはスイちゃんを知ってるんやね」
「うん……どうしよう、聴いちゃった」
「可哀想な子なんよ、そないに怖がらんであげて」
お祖母ちゃんの膝枕にうずくまる私に、窘めるようにそう言うと、話を続けた。
「港町の盛り場で育って、親を亡くし、自分も亡くなった。可哀想な子なんよ。きっと今でも探しとるんよ、自分の親をな」
「お祖母……ちゃん?」
お祖母ちゃんの顔を見上げると、いつになく憂いを秘めた表情だった。ここ最近の、いつでもニュートラルだったお祖母ちゃんではなかった。
「スイちゃんの親は、睡眠薬か何かを大量に飲んだせいで、昏睡状態で見つかったんよ。その横で寄り添うように亡くなっていたのがスイちゃんや。この話はな、私が若い頃から言い伝わっとる、本当の話や」
私がキョトンとしていると、お祖母ちゃんは私の頭を撫でた。
「……だからな、きっと無念をぶつけられんで、自分の気持を分かってもらいたくて、各地をうろついとるんよ。母親と同じ昏睡の人を増やしながらな。でもな、本質は決して悪霊じゃないんや、分かったってな」
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