Ⅲ.対峙

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 すると、となりのスイちゃんは、笑っていた。 「……ありがとう、しっかり、歌ってくれて」 「え?」  私がぽかんとしていると、隣のスイちゃんが語りだす。 「私のお母さん……香水が好きだったの。だから私に、香水から『スイ』って、名前を付けたんだって……」 「香水の……スイ?」 「そう。それでいつも、私に子守唄を歌ってくれていた。スイスイスイ、香水のスイ♪ って」  スイちゃんが空を見上げる。前髪がふわっと浮いて、目が(あらわ)になった。丸くて大きくて人形のような瞳だった。 「……お母さんが死ぬ時、私はゆっくり眠れるように、歌ってあげたの。スイスイスイ、香水のスイって、子守唄をね。それなのに――」  スイちゃんは、唇を噛み締めた。 「聴き間違いで、昏睡のスイって、伝わった。私がまるで、呪っているみたいに。だから本当に、呪ってやった……!」  いつの間にか恐怖心が消えていた。それどころか霊であるはずの少女の背に手を回していた。それしか出来ないから。 「……ありがとう、正しく、歌ってくれて――」  そう言うと、スイちゃんは微笑んだまま光に包まれ、消えていった。  私は立ち上がると、その光に向かって叫んだ。 「私が正しく歌っていくよ!  スイ、スイ、スイ、香水のスイ♪ ってね――!!!」  今、思い切り歌ったのに、当然私は昏睡状態になんかなっていない。  呪いなんかではなく、訂正だったのだ。  私はお祖母ちゃんと――あと瀬田川に向かい、敬意を込めて頭を下げるのだった。  ■おわり■
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