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すると、となりのスイちゃんは、笑っていた。
「……ありがとう、しっかり、歌ってくれて」
「え?」
私がぽかんとしていると、隣のスイちゃんが語りだす。
「私のお母さん……香水が好きだったの。だから私に、香水から『スイ』って、名前を付けたんだって……」
「香水の……スイ?」
「そう。それでいつも、私に子守唄を歌ってくれていた。スイスイスイ、香水のスイ♪ って」
スイちゃんが空を見上げる。前髪がふわっと浮いて、目が顕になった。丸くて大きくて人形のような瞳だった。
「……お母さんが死ぬ時、私はゆっくり眠れるように、歌ってあげたの。スイスイスイ、香水のスイって、子守唄をね。それなのに――」
スイちゃんは、唇を噛み締めた。
「聴き間違いで、昏睡のスイって、伝わった。私がまるで、呪っているみたいに。だから本当に、呪ってやった……!」
いつの間にか恐怖心が消えていた。それどころか霊であるはずの少女の背に手を回していた。それしか出来ないから。
「……ありがとう、正しく、歌ってくれて――」
そう言うと、スイちゃんは微笑んだまま光に包まれ、消えていった。
私は立ち上がると、その光に向かって叫んだ。
「私が正しく歌っていくよ!
スイ、スイ、スイ、香水のスイ♪ ってね――!!!」
今、思い切り歌ったのに、当然私は昏睡状態になんかなっていない。
呪いなんかではなく、訂正だったのだ。
私はお祖母ちゃんと――あと瀬田川先生に向かい、敬意を込めて頭を下げるのだった。
■おわり■
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