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翌朝、気になった私はお祖母ちゃんに話を訊きに向かう。もちろん昨晩の話についてだ。深夜に聞き耳を立てていたことを咎められそうな気もしたが、最近のお祖母ちゃんならば、以前よりも与し易い。上手いこと取り繕えば言いくるめられそうな気がした。
「お祖母ちゃん、おはよう――」
お祖母ちゃんの部屋の戸を開けながらそう発したが、空発に終わった。部屋の隅に綺麗に折り畳まれた寝具が、疾うの昔にここを後にしたことを物語る。大人というのは、就寝時間に対して起床が早すぎやしないだろうか。特に年配の方はそうだ。実はめちゃくちゃ体力があるのだろうか。
私は頭の中で訝りながら、仕方なく居間の方へと足を向けた。
台所から響く油の爆ぜる音が、私の頭を『昏睡のスイちゃん』から朝食へと切り替えていく。お腹の虫も疼き出したようで小さく鳴いた。
「お母さん、おはよう」
「アカネ! 珍しいね、自分から起きてくるなんて」
「お腹すいた」
「はいはい。丁度目玉焼きが焼けるから、呼びに行くとこだったの。手間が省けたわ」
あくまでも私を寝坊助にしたそうな口ぶりのお母さんに、若干の憤りを感じつつも、目玉焼きの誘惑には勝てなかった。私がお箸に手を伸ばした時、お母さんが思い出したように手をポンと叩く。
「ねえ、お祖母ちゃんにバナナ買ってって、言った?」
身に覚えのあった私はコクリと頷いた。お母さんは続けて訊く。
「いつ言った?」
「ええ? 多分……三日前くらいかな」
うろ覚えだったが、漢字テストの勉強をしながら話した記憶があったので、瞬時に逆算して三日前だと口に出す。するとお母さんは困ったように笑いながら返した。
「冷蔵庫にね……三房あったよ」
「ええ!? そんなに頼んでないし」
「んー。最近ちょっと、ね。お祖母ちゃん、気をつけないと……」
お母さんは言葉を濁したけれど、加齢の影響が顕著に出始めたことを差していることは、小学生の私にも手に取るように分かった。というか最近のお祖母ちゃんを見ていれば、言われなくたって分かっていた。俗な言い方をすれば『ボケている』ことがあるのだ。
でも、昭和の女然とした慎ましさを私に求めていたお祖母ちゃんは、時折厳しいことがあった。最近は前述の影響からかその傾向が減っていたから、私としてはラッキーだと感じていた。子供って、私って、残酷なのかな。
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