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――朝食を済ませた私は、ランドセルを背負って玄関へと駆ける。
早起きをしたくせに、結局いつもの登校時間に収束してしまうのは、我ながら不思議だ。今日もいつも通りの速歩きを余儀なくされる。最早、速歩きという速度が私の通常になりつつあるのではないだろうか。
通学路をせかせかと進んでいると、前方に現在時刻にそぐわない堂々とした歩みを見せる男子生徒の姿。それがキョウスケであることはすぐに分かった。私は追い抜きながら発する。
「キョウスケ、遅刻するとまた瀬田川に怒鳴られるよ」
「おお、アカネ! ちょっと聞けよ!」
私の警告を無視したばかりか、止まれとばかりに私の肩を掴む。
「ちょっと、巻き添えにしないでよ」
「いやいや、瀬田川なんかより、よっぼど怖え話があんだよ!」
うっかり興味をひかれた私は、歩調をキョウスケに合わせて少し緩めた。
「……なに?」
「知ってるか、秋田ンところお母さんの話?」
「あ! もしかして、眠ったまま起きないとかいうやつ?」
「そう! なんで知ってんだ?」
「お母さん達が話してるのが聞こえてきたから」
そう返すと、突然キョウスケは立ち止まった。
「……じゃあお前、『昏睡のスイ』については、知ってるか?」
これには私も思わず立ち止まる。昨晩聞き耳を立てた時の好奇心が、一気に蘇ってきた。
「それ、何なの? お祖母ちゃんも言ってた」
「マジかよ! アカネのばあちゃんが言ってたとなると、この話、案外本当の話なのかも知れないな」
「この話って、何よ」
「ここ、園岡町がさ、『昏睡のスイ』に呪われたって話だよ」
そこまで聞いた時、学校の方から予鈴を告げるチャイムが鳴り始めた。その音に急かされるように、私達はどちらともなく会話を切って、リレーばりの速度で駆け出した。
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