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――二限目まで授業が終わると、長い休み時間『中間休み』に入る。私はそのタイミングを見計らって、キョウスケのいる六年二組へと急ぎ向かった。
到着して見回すと、教室の隅でどこか不貞腐れた表情のキョウスケの姿があった。
「ねえキョウスケ、朝の話だけど――」
朝の勢いとは打って変わって、キョウスケは伏し目がちに私を見る。
「……おう、アカネか」
「どしたの? あ……もしかして、瀬田川?」
「そうだよ……朝から職員室で、どやされたわ」
「それは災難だったね」
キョウスケは机に突っ伏しながら、いかにも疲れたという口調で発する。
「……はあ。あいつ、顔も怖えし声もうるせえし、香水? コロン? あれの匂いもキッツイんだよな、マジ最悪」
「分かる分かる、匂いすごいよね。おじさんのくせにああいうの、するものなのかな?」
「……アカネってさ、ナチュラルに口悪いよな」
同調してあげたのに、若干顔を引き攣らせるキョウスケ。私は聞かなかったことにして、本題へと話を戻す。
「それより、朝の続き、話してよ。『昏睡のスイ』の話」
「あ……! そういや途中だったな」
キョウスケは私の手を引くと「こっち」と言いながら教室を出た。
向かった先は、階の端っこにある配膳ホールだった。給食の前後以外活気のないこの場所に連れ出したということは、あまり大声では言えない話なのだろう。
「よし、ここなら大丈夫だ」
「何でこんなところ? 怖いんだけど」
「怖いんだよ。何せ呪われてるって話だ」
キョウスケはコホンと咳払いすると、一度周囲を見渡してから、小さな声で話し始めた。
「……各地を渡り歩いている悪霊ってのがいるらしくてな、どうやらこの園岡町が、その悪霊に憑かれちまったらしい」
「悪霊……っていうのが、『昏睡のスイ』ってやつなの?」
「ああ。何でも、そいつに目をつけられたら、覚めない眠り……昏睡状態になっちまうって話だ」
「それで……昏睡の、スイか」
昨晩聞いた話と繋がった。秋田くんのお母さんが目を覚まさないという話と、昏睡のスイという言葉。お祖母ちゃんが言っていた話とキョウスケの話が一致したのだ。
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